<第8回「イギリスと環境」研究PJ研究会>          2003/02/22

英国の環境研究組織・保全地域と環境モニタリング

                                                Thames

Abstract

 環境先進国として知られる英国の環境モニタリングの現況を整理した上で、日本との比較を行った。その結果、環境保護活動や水文学の歴史が古い英国では、早くから様々な形でモニタリングが行われてきたことが明確となったが、最近では行政機関の再編などで、それぞれの役割や位置づけが曖昧となっていることがわかった。また、環境保全地域やモニタリング対象地域が多く、ボランタリーに維持されているのが特徴で、データ管理上の問題点も多く見受けられた。しかし、蓄積されたデータやその管理システムの中にはすばらしいものが多く、今後も国際的なリーダーシップをとり続けていくと予測される。さらに、日本の果たすべき役割も明確となった。

Key Words ; 自然保護、環境保全、環境モニタリング、環境データベース、

 

1.はじめに

 時代の流れとともに、自然保護や環境問題への取り組みは次第に変化してきたが、環境科学の成熟や技術的な進歩の影響などを受け、様々なスケールでの環境モニタリングが注目されるようになってきている。地球規模の国際的な取り組みから、ボランティアによる身近なモニタリングまで千差万別だが、国単位としても、未だ組織的・系統的な環境モニタリングが実現できているところは少ない。日本では、まだ本腰を入れて取り組み始めたばかりだが、英国は、この分野においても先進国として知られているので、この機会に現況と問題点を整理し、日本との比較を行ってみた。

 

2.英国の環境研究組織の現況と環境モニタリング

 日本では、省庁再編後、まだ日が浅いこともあって、行政機関や付属研究組織の名称や配置の変更により、情報の収集・整理などで困難を感じることが多いが、日本より数年前から組織改革を進めた英国でも、未だに混乱が続いているように見える。

 もともと、環境モニタリングは、必要に応じて様々な機関でスタートを切ったため、分野や組織を越えて統合化するには困難がある。行政・研究組織・大学・一般などで独自に発展してきたモニタリングシステムは、必ずしも整合性がない上、組織改革によりその区分さえも変化している場合があり、一層の混乱を招いている。

特に、英国では、行政組織がUKとしてまとまっていない場合が多く、国全体の問題を考えるときに、様々な障害が発生する。環境モニタリングについても、核となるべきEnvironmental Agencyは、EnglandWelesだけの組織で、Scottish Environment Protection Agency との連携はあるものの、様々な点で異なっている。

 かつて、環境モニタリングにおいて重要な役割を担ってきたIH(Institut of Hydrology)、IFEInstitute of Freshwater Ecology)、ITEInstitute of Terrestrial Ecology)、などは、分割・再編され、NERCNatural Environment Research Council)内のCEH(Centre for Ecology and Hydrology)のもと、地域別のCentreLaboratryとなったばかり(20004月)で、継続モニタリングが行われている項目でさえ、再編前後のデータをあわせて整理する上で困難を伴うような状況に陥っている。

 しかし、NERCおよびCEHはスコットランドも含んだUKの組織であるため、今後のモニタリングとデータ整理は以前よりも効率的・系統的に行われることが期待される。

  ただし、一方では、NCC ( The Nature Conservancy Council ), JNCC ( Joint Nature Conservation Committee ) などの自然保護関連機関やNBN( National Biodiversity Network),UKAWMN ( United Kingdom Acid Waters Monitoring Network ) などのネットワーク、ECRC ( Environmental Change Research Center UCL ), BHS (British Hydrological Society),SHG(Scottish Hydrological Group), FBA ( Fresh Water Biological Association ) などの大学・学会などの組織でもモニタリング活動は継続されているため、今後、それらとの連携や国際機関との整合的な関係構築など、多くの課題も残されているといえる。 

 

3.英国における自然保護・観察・観測地域と環境データ

 英国の行政による本格的な環境保護の施策は、1949年のthe National Parks and Access to the Countryside Actに始まり、1968,1973,1981,1990年と継続されてきているが、モニタリング的な色彩が濃くなったのは、1973年のRamsar条約によって定められた、Ramsar sites65)以来と考えられる。その後、ECによる野鳥保護の観点から設定されたSPAs(Special Protection Areas-65)が1979年に加わり、1981年から指定されてきたNNRsNational Natur Reserves)は1996年現在で、183 sites となっている。

 また、EnglandSSSIs(Sites of Special Scientific Interest)は1994年9月現在で、3900を数え、総面積の6.8%を占めるまでとなっている。23000ものオーナーによって維持されており、貴重な研究・調査対象地域として個別にボランタリーに維持されている。

それぞれのSiteでは、様々な環境データが取られ、独自のデータベースが作成されており、相互のリンクは進められているものの、未だ系統的な整理がなされているとは言い難く今後の連携のあり方が模索されている。

 

4.日本および諸外国との比較と今後の環境モニタリング

日本では、気象庁や建設省などが、基本的な気象・水文データを観測・整理してきたが、その歴史も浅く、環境モニタリング的な色彩が出てきたのはつい最近のことである。特に本格的なモニタリングサイトとなると、現在環境省が全国に展開すべく検討中で、まだまだこれからといったところである。

 欧米でも、環境モニタリングや環境データベースが十分機能しているのは一部の環境先進国にすぎないが、一方では地球規模の活動は活発化しており、その間のスケールの差を埋める努力が早急に求められている。

 日本の現況は若干遅れているとはいえ、最近の環境NGO/NPOの増加は目を見張るものがあり、環境意識や社会情勢の変化などから、今後著しい発展が予測される。

 そうした中で、日本は、後発故の利点を活し、独自の文化や国民性の特徴を活かすためにも、イギリスをはじめとしたモニタリング先進国や発展途上国の状況を調査・検討しつつ、一つのグローバル標準となりうるような環境モニタリングとデータベースシステム作成のための独自の見通しを早急に立てる必要がある。

 

5.おわりに

 英国では、The National Trustが設立された1895年以前に、「環境モニタリング」的な考え方がすでにあったのではないかと考えられる。長期にわたって様々なものを収集・整理し、その変化を分析し続けてきた国民性故の先進性であったと思われるが、どういう訳か、現在の一般庶民の環境意識とは、かけ離れているように思えてならない。このあたりが、英国の奥の深いところかも知れないが、もしかすると、画一的な傾向の強い国民性からして、全国規模の信頼度の高い環境モニタリング網で世界の将来を牽引するようになるのは、日本かも知れないという気もしてきている。

 しかし、そのためにはいくつか越えなければならないハードルもあるわけなので、日英両国が短所を補い合い、影響しあいながら、より普遍的な環境モニタリングシステムが構築できるよう努力する必要がある。

 

文  献

 

M. Walkey, I. Swingland, S. Russell-Eds(1999): Integrated Protected Area Management, Kluwer Academic Publishers.

Kevin Gilman (1994): Hydrology and Wetland Conservation, John Wiley & Sons Ltd.

David L. Hawksworth-Ed.(2001): The Changing Wildlife of Great Britain and Ireland, Systematics Association.

M.J. Wigginton-Ed.(1999): British Red Data Books 1 Vascular plants, JNCC.