1.調査の概要:誰に、何を聞いたのか?
対象は、関東の私立大学で開講されている正課のキャリア教育科目「キャリアデザイン入門」を受講した大学生です。
この授業は、1年生から履修可能な学部横断型の14回構成。内容は就活支援だけでなく、
- 社会問題の理解、ワーク・ライフ・バランス
- 働くことの意味、意思決定、非認知能力の育成
- 家族・ジェンダー・人生設計
などといった多岐にわたるものでした。
2.どんな分析を行ったのか?
回答された自由記述(計2,298件)をテキストマイニング手法(KH Coder)で分析。
- 単語の出現頻度
- 共起ネットワーク(どの語とどの語が一緒に使われているか)
- 「ライフキャリア」「ワークキャリア」に関する記述の有無
を、男女別かつ授業前後で比較しました。
3.男子学生と女子学生で、何がどう変わったのか?
男子学生:「仕事」への意識が強まる
wave1では、「お金」「家族」「バランス」といった生活や家庭に関する語も見られた
wave2では、「実績」「成長」「積み上げる」など、仕事中心の語が目立つように
ライフキャリアに関する記述は減少し、抽象化
「キャリア=人生+家庭」という視点が、「キャリア=実績+成功」に収れんしていった
女子学生:ライフとワークの統合的な視点が強まる
wave1では「結婚」「幸せ」などの語が「価値」と共起
wave2では、「生き方」「バランス」「能力」「働くこと」など、人生と仕事のつながりを意識した語が増加
「キャリア=結婚 or 仕事」ではなく、「どちらも含めて、自分らしく生きるには?」という問いへと深化
4.数字で見る変化:ライフキャリアへの意識は?
授業後(wave2)の自由記述でライフキャリアに言及した割合を比較すると…
(有意差あり)
ワークキャリア(就職・収入など)への言及も女子の方が多かったものの、特にライフキャリアに関しては女子が大きく意識を深めたことがわかりました。
5.「誰に何が届いたか」を問い直す視点
このような変化は、「キャリア教育が全員に同じように届いているわけではない」という事実を浮き彫りにしています。
- 女子学生は、ライフキャリアに対する想像力や言語化力が授業を通じて高まっていた
- 男子学生は、仕事や実績を重視する視点が強まり、家庭や生活に関する視点はむしろ後退した傾向も
この違いは、「男子学生にはライフキャリアの視点が十分に伝わっていない」という設計上の盲点を示しているかもしれません。
6.キャリア教育が無意識に伝えている「メッセージ」とは?
今回の分析から、キャリア教育が次のようなジェンダーに依存した"無意識のメッセージ"を学生に与えてしまっている可能性が見えてきました。
教育設計への警鐘
ジェンダーに応じた"適応"を助長してしまうとすれば、キャリア教育そのものが、社会の不平等を強化する側面を持ちかねません。
7.まとめ:キャリア教育は、誰の人生にも「両立」を届けよう
この研究から見えてきたのは、
- 女子学生には、ライフキャリアを描く力が育まれていた
- 男子学生には、生活や家庭の視点があまり届いていなかった
- キャリア教育の"伝え方"そのものが、無意識にジェンダーロールを再生産してしまう可能性
という複雑な現実でした。
これからのキャリア教育に求められること
だからこそ、これからのキャリア教育は、
- 「仕事」だけでなく「人生全体」としてキャリアを描く視点
- ジェンダーによらず、全員にライフキャリアの重要性を伝える設計
が求められます。
出典
九鬼成美・梅崎修・田澤実(2024)「学部横断型キャリア教育が大学生のキャリアイメージに及ぼす影響:ジェンダー分析を通して」『生涯学習とキャリアデザイン』第21巻第2号, pp.103–113