研究解説記事

キャリア教育で「人生の描き方」は変わる?

大学生1,389人のデータが示した、男女差のリアル
発行 2024年
テキストマイニング分析
ジェンダー分析
「キャリア=就職」だけじゃない──。最近の大学では、人生そのものをどう設計するかを考える"ライフキャリア"型の教育が広がっています。でも、その授業を受けた学生は、キャリアに対するイメージを本当に変えているのでしょうか? そして、その変化は男女で異なるのでしょうか?今回は、大学生1,389人を対象にした調査(九鬼・梅崎・田澤, 2024)をもとに、キャリア教育によって学生のキャリア観がどのように変化したのかを紹介します。

1.調査の概要:誰に、何を聞いたのか?

対象は、関東の私立大学で開講されている正課のキャリア教育科目「キャリアデザイン入門」を受講した大学生です。

実施時期
授業の初回(4月)と最終回(7月)に実施
質問内容
自由記述で「キャリアと聞いて何を思い浮かべますか?」と質問
回答者数
初回(wave1)1,389名(男子687名・女子702名)、最終回(wave2)811名(男子365名・女子446名)

この授業は、1年生から履修可能な学部横断型の14回構成。内容は就活支援だけでなく、

  • 社会問題の理解、ワーク・ライフ・バランス
  • 働くことの意味、意思決定、非認知能力の育成
  • 家族・ジェンダー・人生設計

などといった多岐にわたるものでした。

2.どんな分析を行ったのか?

回答された自由記述(計2,298件)をテキストマイニング手法(KH Coder)で分析。

を、男女別かつ授業前後で比較しました。

3.男子学生と女子学生で、何がどう変わったのか?

男子学生:「仕事」への意識が強まる

wave1では、「お金」「家族」「バランス」といった生活や家庭に関する語も見られた

wave2では、「実績」「成長」「積み上げる」など、仕事中心の語が目立つように

ライフキャリアに関する記述は減少し、抽象化

「キャリア=人生+家庭」という視点が、「キャリア=実績+成功」に収れんしていった

女子学生:ライフとワークの統合的な視点が強まる

wave1では「結婚」「幸せ」などの語が「価値」と共起

wave2では、「生き方」「バランス」「能力」「働くこと」など、人生と仕事のつながりを意識した語が増加

「キャリア=結婚 or 仕事」ではなく、「どちらも含めて、自分らしく生きるには?」という問いへと深化

4.数字で見る変化:ライフキャリアへの意識は?

授業後(wave2)の自由記述でライフキャリアに言及した割合を比較すると…

男子学生
5.75%
ライフキャリアに言及
女子学生
12.11%
ライフキャリアに言及
(有意差あり)

ワークキャリア(就職・収入など)への言及も女子の方が多かったものの、特にライフキャリアに関しては女子が大きく意識を深めたことがわかりました。

5.「誰に何が届いたか」を問い直す視点

このような変化は、「キャリア教育が全員に同じように届いているわけではない」という事実を浮き彫りにしています。

この違いは、「男子学生にはライフキャリアの視点が十分に伝わっていない」という設計上の盲点を示しているかもしれません。

6.キャリア教育が無意識に伝えている「メッセージ」とは?

今回の分析から、キャリア教育が次のようなジェンダーに依存した"無意識のメッセージ"を学生に与えてしまっている可能性が見えてきました。

無意識のメッセージ分析

男子学生に対して

  • 「キャリア=仕事で成果を出すこと」
  • 「家族を養う存在として、成功を目指すべき」という"稼ぎ手モデル"の内面化
  • 授業によってこの傾向がむしろ強化された可能性も

女子学生に対して

  • 「キャリア=仕事と家庭のバランスをとること」
  • ライフキャリアを言語化しやすい素地があり、授業を通じてその視点が深化
  • 一方で、「両立前提」でキャリアを考えるという制約の再生産の可能性も

教育設計への警鐘

ジェンダーに応じた"適応"を助長してしまうとすれば、キャリア教育そのものが、社会の不平等を強化する側面を持ちかねません。

7.まとめ:キャリア教育は、誰の人生にも「両立」を届けよう

この研究から見えてきたのは、

という複雑な現実でした。

これからのキャリア教育に求められること

だからこそ、これからのキャリア教育は、

  • 「仕事」だけでなく「人生全体」としてキャリアを描く視点
  • ジェンダーによらず、全員にライフキャリアの重要性を伝える設計

が求められます。

出典

九鬼成美・梅崎修・田澤実(2024)「学部横断型キャリア教育が大学生のキャリアイメージに及ぼす影響:ジェンダー分析を通して」『生涯学習とキャリアデザイン』第21巻第2号, pp.103–113

機関リポジトリ(pdfあり)