日本語教師になりたい人へ

1.日本語教師が大流行

  日本語教師というのが最近ちまたで流行っているようです。確かに、ここ20年で需要が急増した業種です。「外国人に囲まれて、
手軽に異文化コミュニケーションを楽しみたい」という人にとっては非常に魅力的な職業なんでしょう。日本人(特に若者)の意識が国際化したことも手伝ってか、日本語教師になりたいという人も爆発的に増えています。
  そのおかげで、専門学校やビジネススクールでも日本語教師養成コースというのが乱立しています。ためしに Google という検索サイトで「日本語教師」とキーワードを入れて検索してみてください。きっと、たーーーーくさん専門学校が出てきます。それだけたくさんの養成講座が開講されているってことは、それだけ儲かるからです。つまり、それだけ養成講座を受講する人が多いということです。私の先輩(某女子大で言語学を教えています)のお母様も受講してらっしゃるそうです。主婦層だけでなく、OLさんなんかも多いようですが。


2.日本語教師なんてカンタン?

  日本語教師がブームになるにつれて、日本人であれば誰でもカンタンに日本語教師になることができると安直に考えている人も爆発的に増えたように思われます。日本の小〜高校の教員になるために必要な免許は、まず大卒でなければいけません。加えて、それぞれの教科に関する専門的な知識も必要になります。そして極めつけは、各都道府県で実施している採用試験に合格しなければなりませんが、こういう競争では、各教科科目に関する知識が問われるため、高偏差値大学の卒業者が圧倒的に有利になります。ですから、現実的な話しをすると、ある程度以上の大学を卒業した人でなければなかなか就職できるものではありません。
  しかし日本語教師であれば、
「自分は日本語のネイティブスピーカーなんだから、あまり勉強しなくても大丈夫だ!」と思ってしまう人が多いようです。「英語を教えるなんて自分には無理だけど、日本語なら自分はなんといってもネイティブなんだから、外国人に教えるくらい簡単なはずだ。少なくとも、英語教師を目指す人が死にものぐるいで英語を勉強するような、そんな苦しい勉強はしなくて済む。」という論理です。
  こう考えてしまうのは無理もありませんが、それはあまりにも浅はかです。ちょっとした知能と常識があれば、それほど甘いものではないというのが分かるはずです。たとえば時制。動詞の「変わる」と「変わった」について。「「変わる」が現在形で、「変わった」はその過去形である。」と説明すればいいじゃないか。」...............と思いますか? ま、最初はそれでも構わないのですが、それで騙せるのは初級までです。いつかきっと困ります。それは英語的な発想なのです。英語教育に毒されていると言っても過言ではないでしょう。「変わる」は確かに過去のことについて述べるわけではありませんが、「彼女は飽きっぽいから、明日になればきっと気が変わるよ。」という表現では未来の事を表しており、現在の事ではありません。単純に「「変わる」は現在形なんだ」という思い込みは大きな間違いです。
  また、「変わった」についても、「これは「変わる」の過去形なんだ」と考えるだけではいけません。なぜなら、「あいつは変わった奴だ。」という場合、「変わった奴」というのは過去の出来事なのでしょうか?こういった形容詞的用法もあるのです。
  他にも「くねくねと曲がった道」という場合の「曲がった」はどうでしょう? これも動詞の過去形だとは単純に言えなさそうですね。なぜなら、「くねくねと曲が
って(い)る道」というように、テイル形でも表現できるからです。英語で表現した場合も "winding road" となり、"wound road"にはなりません。("wound"は"wind"「うねる、屈曲する」)の過去形です。)
  さらには、「もし明日、彼女の気が
変わったら、どうしようか?」という場合はどうでしょう。この文は過去の出来事ではなく、未来の出来事について語っていますよね。これも単純に「「変わった」は過去形なのだ」と説明するわけにはいきませんね。このように、時制一つとってみても、一筋縄ではいかないことが多いのです。
  こういう場合、むしろネイティブスピーカーの方が
無知なのです。一流のF1ドライバーは、車を上手に操ることはできますが、車のエンジンを作ることができないのと一緒です。上手にパソコンを使いこなせるからといって、パソコンの内部で何が起こっているか知らないのと一緒です。自分が正しく母語を運用できるからといって、その母語を系統立てて他者に説明できるとは限らないのです。(ここらへんの事は、「日本語学」と「日本語学概論」の授業で勉強しましょう。ただし、それだけでは日本語の全てを網羅することなど到底できないことは言うまでもありません。)

3.免許は?

  
日本語教師になるための正式な資格は存在しません学校教員のように、国家的な資格(実際に交付するのは各都道府県の教育委員会ですが)を取得する義務はありません。というのも、学校教員は国が定める公的機関で教える職員ですが、日本語教員というのはそのような立場ではなく、主に民間の日本語学校で教える職業だからです。ちょっと喩えが悪いですが、NOVAやECCジュニアの英会話講師みたいなものですね。
  とはいえ、日本国際教育支援協会という財団法人が毎年一回実施している
「日本語教育能力検定」という試験が存在しており、現在ではこれが日本語教師の資格として幅広く定着しつつあります。この試験にパスすることは必須ではありませんが、採用の条件として掲げてある場合も多く、非常に重視されていることは事実です。筆記試験のみで実際の教育能力を過不足なく測ることは当然できませんが、それでも必要な知識や能力の一部は測れます。ですから、この検定試験に合格することは、日本語教師として最低限身につけておきたい知識を有していることを保証してくれるというわけです。面白いことに、この試験は特別な受験資格はありません。つまり、大卒でなくとも受験できるのです。ですが、「大卒であること」が専任講師の採用条件に入っていることが非常に多いのも事実です。

4.ちょっと異色の就職活動!

  日本語教師は、学校教員のように法的に定められたライセンスがあるわけでもなく、公務員でもありませんので、資格取得から就職という重要な段階も
制度化されていません。教員採用試験のように各都道府県によって一斉採用試験があるわけでもありません。民間の外国語学校や、海外の日本語学校が各自で採用活動を行っていいるのが現状です。つまり、学校教員になるための活動というよりは、企業をターゲットに就職活動を行うのに近いです。というか、そのものです。
  唯一違うのは、採用人数が極めて少数なため、企業説明会などがないことです。自分で求人情報を調べて、自分で申し込むしかありません。最近では、インターネットでの公募に合格して、即その国へ........ってのもあるようです。情報収集能力、実行力、度胸がカギになります。

5.就職はチョナンカン..........じゃなくて超難関!

  日本語教師になりたい人にとって、現実はそう甘くありません。国内でポストを探す場合、まず生徒となる外国人が多く居住する地域でなければいけません。これは需要と供給の問題ですから、どうしても都会の方が多くなります。海外でポストを探す場合、日本人の多い所は
不利になります。わざわざ日本から連れてこなくても、現地の事情をよく知っている日本人がすぐ見つかるからです。
  私のところにも「日本語教師になりたいんです!」という学生が来ますが、その時は次のような質問をすることにしています。「じゃ、
モルジブに1人で行って教えられますか?」と。ほとんどの学生は「それはちょっと......」という反応を示します。中国に行くことすらためらう学生も多いです。彼らのイメージとしては、日本国内で教えるか、もしくはヨーロッパやアメリカといった白人圏の国に住むことが前提になっているようです。ただでさえ倍率の高い業種なので、経験のないヒヨッコがそのような条件をつけるとまず不可能です。

6.こんな秘策も......

  本気で日本語教師になりたい..........という覚悟があるならば、
留学してみるというのも手です。私の知り合いにも、留学中に「この大学で日本語を教えないか?」と教授から誘われたのがいます。(残念ながら、彼は日本語が専門ではなかったので断りましたが。) まだ日本語教師という職業が現在ほどポピュラーではなかった時代では、日本語教育とは無縁の専攻で留学(またはその他の理由で海外在住)していた日本人が、現地で日本語教師として就職するというケースが非常に多かったのです。わざわざ日本から日本語教師を呼び寄せる手間も省けますし、現地の日本人であれば現地の言葉や風習を熟知しているはずなので、余計な心配をしなくても済むからです。
  留学は非常に魅力的です。(大学院も魅力的です。興味ある人はこちらを読んで見て。) 留学することで、まずその国の言語が身に付きます。これは現地での就職に非常に有利。また、その国に知り合い(いわゆる”コネ”)を作れます。これも現地での就職に有利。単なる「在住」ではなく「留学」であれば、現地大学の教授やその他の教育関係者とも知り合いになる機会があるでしょう。そうすれば、日本語教育に関与している人と知り合いになれるかもしれません。そして何よりも、異国で外国語を学ぶという苦労を経験することができます。日本語教師として、これは貴重な経験になります。あまり長々と書いてもしょうがないので、日本語教師という職業に興味がある人は以下のじっくりと情報収集してみてください。


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