「新横浜の街」


 町田の街をみてから横浜線で新横浜に向かった。小机駅を過ぎてしばらくすると右手にラブホテルがいくつも見えた。たしか新横浜の中心街は左手にあるはずだが。ラブホテルが中心街とは線路を挟んで反対側にあると、街の構成としては複雑ではないかと思った。町田も鉄道が交差しているし、新横浜も新幹線と横浜線が交差した街である。そのような街は、人の主たる流れが定まらず街の構成がすっきりしない。新横浜もそうなのか。
 ラブホテルがみえてから駅まではそれなりの距離があった。夜6時になっていた。街全体を見るのは時間がかかるかもしれない。
 新幹線駅なので構内は広かった。外に出るといきなり工事塀が塞いでいた。駅前広場は広く、整備中であった。そこを抜けるとバスターミナルがあった。それも図抜けて広い。さすが新幹線用に造られた街である。バスターミナルを渡りきって大通りに出た。目の前はビル群である。未来の街に来たようで圧倒された。
 暗くなりかけた道を、地図の赤矢印の方向に歩き始めた。たぶんこれがこの街の主たる流れの方向であろう。それしかないことは直感でわかった。1ブロック歩くと、左手に明るい街路があったので左折した。何人かの男たちが立っていた。呼び込みであろうが、歓楽街にいる隠微な雰囲気の者たちではなく、今風の居酒屋を象徴する礼儀正しさを感じさせた。

(『プロアトラスW2』を加工)

 地図では黄枠に記したところであるが、幅十数メートルの街路の両側に店が並んでいた。立派なビルに収まった店なので、いきなり出入口というのではなく、ビルに入ってから店に行くという感じで少し高級感を漂わせていた。1ブロック約150m行くと、左手に大通りに架かっている駅からの歩道橋があった。さらにこの先を行けばスナック街があるのだろう。そんな期待をもちながらさらに1ブロック行った。左手の大通りに面したところに東横インがあった。その周辺にクラブらしい雰囲気の看板があったが、実際は居酒屋であった。
 さらに歩いていくと暗くなってきた。奥の並行した道には店があるような明るさはなかった。店があるのはこの通りだけだった。暗くなってきた道を進んでいくとホテルの看板がみえた。立派なホテルであるがラブホテルのようであった。さらにその先にネオンが輝く建物があった。その手前に土手がある。線路だった。狭いガード下をくぐって線路向こうに出た。ラブホテル街だった。一つ一つが豪華さを感じさせる建物である。歩いているのは私だけだった。
 横浜線で来たときに右手に見えたラブホテル群は、左手の繁華街をまっすぐ歩いてくると突き当たることがわかった。ということは、新幹線と横浜線が直交しているのではなく、交わる角度が小さいということである。あとで地図を確認したら一目瞭然だった。
 大通りに出て、さきほどの明るい街路に戻った。次は、赤矢印の右方向を見る必要がある。新横浜国際ホテルがあり、さらにビルが並んでいた。周辺は暗く人通りもなかった。もう調べる必要はなかった。
 新幹線が開通したのは東京オリンピックがあった1964年である。東京−大阪間を初めて走る新幹線をTV中継したのをみた。それから40年経った。新しく造られた街にも、自然にできあがってくる街の機能がある。歓楽街は人の主たる流れの左方向にできるというのが私の考えである。新横浜もそれに該当していた。ビル群が造られたのは当初から計画されたかもしれないが、そこに居酒屋が入るかどうかまでは計画されたものではないだろう。一本の通りだけだが、400mにわたって繁華街が出現してる。新しく造られた街だけに、私の考えに沿っていてうれしかった。
 いくつか疑問も残った。まず、スナック・クラブが見あたらないことである。まだそこまで成熟した街ではないということか。次に、整然と区画された町並みであることは当然であろうが、横浜線を越えてラブホテル街まで区画されているとしたら、横浜線が開通する前からそのような町があったのか。そんなはずはないのだが。
 7時を過ぎていた。何か食べて帰ることにした。居酒屋の中まではわからかったが、人が多く入っている飲食店は一つしかなかった。右の方に緑で「店」記号と示したところである。「中国ラーメン揚州商人」と看板が出ていた。たしかにうまかった。

---------------------------------------------
 整然と区画された町並みは、新幹線駅が開設されてから造られた(『港北区史』昭和61年発行。71頁)。
 スナック・クラブについてはタウンページで調べてみた。スナック2軒、バー・クラブ12軒、パブ・ビストロ12軒であった。場所は地図で黄枠に囲んだ右端のところに多く、繁華街でも主たる流れに近いところである。たぶん少し高級なイメージの店なのであろう。新横浜には場末のにおいがするスナック街は必要ない。新幹線用の街なのである。