研究解説記事

キャリア教育は「入門」で終わる?「応用」まで進む?

大学生のキャリア意識に与える"継続効果"を探る
発行 2024年
継続受講率:わずか15%
セルフセレクション分析
大学で開講されているキャリア教育の授業──。その効果は「1回だけ」受ければ十分なのか、それとも「応用編」まで継続して受講することでキャリア意識がより高まるのか──。この記事では、法政大学キャリアセンターが提供する2つの科目「キャリアデザイン入門」と「キャリアデザイン応用」の受講データを用いた研究(瀬戸・梅崎・田澤, 2024年3月発行)をもとに、キャリア教育の"累積的な効果"を読み解きます。

1.研究の背景:「複数回のキャリア教育」は意味があるのか?

多くの大学では、1年次にキャリア教育の授業(基礎編)を開講しています。しかし、「1回の授業でどこまで効果があるのか?」という疑問や、「発展的な授業を受けることで、さらにキャリア意識が高まるのか?」といった問いには、これまで十分に答えが出ていませんでした。

この研究では、「キャリアデザイン入門」→「キャリアデザイン応用」と、複数回にわたってキャリア教育を受けた学生の意識変化を追跡し、

  • 誰が継続して受講するのか?(セルフセレクション)
  • 継続して受講することで、キャリア意識にどのような影響があるのか?

という2つの問いに答えようとしました。

2.データと手法:「継続受講者」はたった15%

研究では、CAVT(キャリア・アクション・ビジョン・テスト)というキャリア意識を測定するテストを活用しました。このテストは「行動意欲(アクション)」と「将来の見通し(ビジョン)」の2つの側面から学生の意識を数値化するものです。

分析に用いたデータは以下の通りです:

  • 「キャリアデザイン入門」「キャリアデザイン応用」の受講者データ
  • 両科目の受講前後、計4時点のCAVTスコア
  • 学生の属性(学年・性別・GPAなど)や入試形態
15% 「入門」から「応用」へと継続して受講した学生の割合

これは、キャンパスの場所や授業の必修・選択区分など、制度的な要因の影響も大きいと考えられます。

3.結果①:誰が「応用」まで受講するのか?

継続受講は「成果を感じたから」ではない?

一般的には、「真面目な学生が継続して受講する」と思われがちですが、この研究ではそれとは異なる傾向が見られました。

  • アクション得点(行動意欲)の水準が高い学生ほど、むしろ応用を受講しない傾向
  • ビジョン得点(将来の見通し)の伸びが大きい学生も、受講しない傾向

つまり、「すでに成果を得た」と感じた学生ほど、次の授業を受けていない可能性があるのです。

一方、「行動の伸び」が大きい学生は継続

逆に、アクション得点の"伸び率"が高かった学生、つまり「入門を受けて自信がついた」学生は継続して受講する傾向がありました。

また、将来の見通し(ビジョン得点)が十分でないと感じている学生は、「まだ不安があるから応用も受けておこう」と考える傾向があることも示されました。

4.結果②:応用まで受けると、キャリア意識はどう変わる?

研究では、「入門+応用」と継続して受けた学生と、「応用から受けた」学生を比較し、CAVTスコアの推移を記述的に分析しました。

全体としては、累積的な効果は限定的

図や統計分析から明らかになったのは、ビジョン得点・アクション得点のどちらも、受講の継続有無による明確な違いは見られなかったということ。つまり、継続して受講することでキャリア意識が線形的に高まるような累積効果は確認されませんでした。

5.結果③:ただし"属性"によって効果は異なる?

性別や学年で細かく分析すると、いくつか興味深い傾向が見えてきました。

男性

  • 「入門を受けずに応用から」受講した学生のほうが、CAVT得点が一貫して高い傾向が見られた
  • アクション得点の伸びが大きいほど、むしろ継続受講しない傾向

これは、「キャリア意識がまだ低く、でも何かしなきゃと焦っている」層が継続して受講している可能性があると考えられます。

2年生

  • ビジョン得点の変化は継続有無で差は見られないが、
  • アクション得点は継続受講者の伸びが急激

2年生は就職活動が迫っている時期であり、時間的切迫感から授業を受けた結果、業界分析などの就活スキルは得たが、目標が定まらないまま動き出すという現象が起きていると考察されています。

6.考察:キャリア教育の継続受講は"補償的"?

この研究の重要な示唆は、キャリア教育を「複数回受ければ効果が高まる」と単純には言えない点です。むしろ、「まだ不安」「やりたいことが見つかっていない」と感じる学生にとって、補償的な役割を果たしているのが「応用科目」であり、

という"自己選択"が働いていることがわかりました。

7.教育現場への示唆:「焦りのまま就活」ではなく、立ち止まる機会を

「ただ動けばいいわけじゃない」

とくに2年生のように「情報は得たが目標は定まらない」という状態は、過去に「やりたいこと信仰」がフリーター化を招いた状況とも類似しています。

この結果は、キャリア教育が「行動」だけでなく「見通し」や「省察」の機会を設ける必要性を示唆しています。

ただ動けばいいわけじゃない。 だからこそ、キャリア教育には「考えるために立ち止まる」場の設計が求められているのかもしれません。

8.研究の限界と今後の課題

研究の限界

この研究は特定の大学(法政大学)のデータに基づいており、他大学への一般化には注意が必要です。また、継続受講率が15%と低いため、統計的な結論には限界があることも考慮すべきでしょう。

出典

瀬戸健太郎・梅崎修・田澤実(2024)「キャリアセンターが提供するキャリア教育科目の効果測定(2)―入門から応用へ―」『生涯学習とキャリアデザイン』21(2), p115-129.

機関リポジトリ(pdfあり)