春季一般試験(小論文の問題 90分) |
下記の6題の中から一つを選んで解答しなさい.
(どの問題を解答したか分かるように,解答用紙の冒頭に問題番号を大きく書くこと) |
- 地球温暖化問題に関する京都議定書がこのほど発効したが,わが国でもその目的を果たすために国内対策と京都メカニズムと呼ばれる国際対策の双方の実施が想定される.それぞれどのような対策が具体的に考えられるか,簡潔に述べよ.また,どのような対策を優先するべきか,その意見と理由を簡潔に述べよ.
- CSRとは何か.CSRが社会的に問題となっているのはなぜか.CSR経営を推進するためにはどうすればよいか.
- 次の事例について,できるだけ多様な観点から論ぜよ.
[事例]
日本国内の産業廃棄物処理業者が,医療廃棄物を含む廃棄物を開発途上国に送り込んだことについて,日本国政府は自らの手でその廃棄物を日本国内に取り戻し,当該業者に法的責任を負わせた.
- (1)別紙の文章を読んで自分の主張を記せ.
(2)別紙の文章に適切な題をつけよ.
- このほど発効した京都議定書についてその内容を述べ,さらに問題点と地球温暖化防止に対する効果について論ぜよ*.
- 国際開発協力と国際環境協力の違いを述べた上で,両者を組み合わせて実施することによって,どのような課題への取り組みが可能となるか論ぜよ.またその際にどのような主体が,どのような取り組みを行うことが望ましいか,についても触れよ.そのような取り組みを行う上での,障害・制約要因が予想される場合,同要因とその克服策も論ぜよ.
(*一部編集を加えた) |
[別紙]
環境の便益や費用を経済取引に反映する(内部化する)ことにより環境を保全する場合、当然、その便益や費用を測定できなければならない。しかし、それは実際には難しい。例えば、温暖化ガスの排出が地球環境に与える影響を考えてみよう。温暖化によって作物の育成が促される便益もあるが、洪水や生態系の破壊などの費用もある。しかし、この便益と費用を正確に市場価値として測ることは困難である。
同じことが干潟や湿地などの自然の保全にも当てはまる。干潟や湿地は、人間のみならず地球上の生物に大いなる恩恵を与えてくれる。しかし、この恩恵を市場価値として評価することは難しい。一方、干潟や湿地を破壊することでできる工場やホテルなどは、市場で評価できる価値を生む。これでは自然に分が悪いことは明らかだ。
それでは、規制によって自然を守ればよいのか。しかし、やみくもに規制すると、今度は潜在的な経済的便益を失ってしまう可能性が出てくる。問題は、自然を失う費用と、開発によって生まれる経済的便益を的確に比較することなのである。
自然の便益や費用を市場評価に置き換えるいくつかの手法が知られている。例えば、自然の美しさなどの便益は地価に反映するかもしれない。統計的な手法によって、この自然の美しさの経済評価を抽出できれば、自然の便益の市場価値が測定できる。あるいは、人々が時間をかけて自然景観の美しい場所まで旅行した場合、旅行に要した費用を、その景観の主観的な市場価値とみなすこともできる。
現在では、アンケートなどによって人々の環境に対する主観的な評価を尋ね、統計的な手法を駆使して環境価値を割り出す方法が開発されている。「仮想評価法」というこの方法は、環境経済学者のみならず幅広く用いられ、公共事業のもたらす便益や費用の測定にも使われている。環境の費用と便益を、公共事業の費用便益分析に的確に反映させるためである。
どの手法にせよ、環境の便益や費用の市場価値を測ることには限界がある。環境を市場価値で評価すること自体、自然の冒とくと考える人もいる。そうはいっても、何らかの評価がないと環境は守れないという現実を忘れてはならない。
環境経済学者は、こうした手法で得られた環境評価を絶対視しているのではない。評価することによって環境保全のための施策に寄与することが必要と考えているのだ。アラスカ沖で1989年に原油を流出した旧エクソン関連会社のタンカー、バルディス号の事件では、仮想評価法が補償の一つの判断材料として使われたのである。
日本経済新聞「やさしい経済学」より
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