|
アクセス
|
お問い合わせ
|
人間環境学部紹介
|
サイトマップ
|
環境ブランドと環境経営度の関係性について
−戦略的環境コミュニケーションのあり方−
川添 輔
1. 問題提起
2. 環境ブランドの先行研究の検証
(1) 環境コミュニケーションの方法の変遷
(2) 環境情報開示と環境ブランド
(3) 環境配慮型製品と環境ブランド
3. 比較研究
(1) イオンとイトーヨーカ堂の比較
(2) シャープと三洋電機の比較
(3) セイコーエプソンとキヤノンの比較
(4) トヨタ自動車と本田技研工業の比較
(5) 松下電器産業とソニーの比較
(6) 環境経営度と環境ブランドの乖離が著しい企業・業界
4. 環境ブランドと企業戦略
(1) 環境経営度と環境ブランド間の相関関係について
(2) 環境ブランドを決定する要因とは
(3) わかりやすい環境コミュニケーションとは
5. 結論
近年、環境問題への意識の高まりから、多くの企業が環境問題に取り組むようになってきた。そうした状況において、企業の環境問題への対応は多様化し、これまでのような問題対処型の環境対策ではなく、環境対策への取り組みを自社の経営資源として考える企業が現れている。それは、経営戦略の中に、環境経営を取り込み、戦略的な観点から環境問題に取り組むようになった結果である。こうして経営戦略の一環として、行われるようになってきた環境経営の中で、今「環境ブランド」が注目されている。
「環境ブランド」とは、きちんとした戦略に基づいて、消費者とのコミュニケーションを図り、自社の環境イメージを高め、それを将来の経営資源として、活用していこう明確なビジョンを持つことによって構築される付加価値の源泉である。それは企業にとって、自社や自社製品の魅力を高めるためにとても重要な要素となり、販売促進という効果だけにとどまらず、顧客をつなぎとめるロイヤルティの源としての効果も期待することができる。「環境ブランド」が企業価値として認められるようになるということは、環境配慮度によって企業や商品が選択されるということを意味し、環境問題にきちんと対応しない企業が生き残ることができない社会の到来を意味している。
しかし、現状では「環境ブランド」を築いていくために必要な企業側と消費者側とのコミュニケーションが上手く行かない場合が多く、企業側の思うようには自社のブランドイメージを高めることができない現実がある。そして、そこには企業と消費者とが求める情報や価値観の違いなどから生じるコミュニケーションギャップが大きく関わっている。この情報のミスマッチが存在することで、消費者が環境に配慮した購買行動をとろうとする場合にも、その購買行動を阻害させる要因となりうる。そのため、この情報のミスマッチを是正し、両社の間での意思の疎通や情報の共有を行うことが早急に求められている。
つまり、環境コミュニケーションには、情報の発信側である企業側の都合だけではなく、情報の受け手である顧客や消費者などのステークホルダーが、企業からの環境情報の開示をどう受け止めているのかも重要な問題となる。よって、環境コミュニケーションにはあくまで相互理解の上になりたつ、双方向性の情報のやり取りが求められているのである。消費者が安心して環境配慮行動を取るためには、消費者が普段目にする情報や製品に対する信頼の証が必要である。企業の「環境ブランド」はまさしくその指標となりうる性質のものであり、環境という価値に関する企業と消費者間との信頼関係を表すものである。
本論文では、環境ブランド力の強い企業を抽出するために、日経BP環境経営フォーラムが行っている「環境ブランド調査」と日本経済新聞が行っている「環境経営度調査」という2つの調査結果を対比させる方法を取った。それにより、企業の実際の環境への取り組み具合と消費者が持つ環境ブランドイメージとの乖離度を確認し、その度合いが大きな企業の環境対応を比較検証することで、効果的な環境コミュニケーション方法とは何かという検証を行った。比較対象企業には、イオンとイトーヨーカ堂の小売業2社やシャープと三洋電機の電機メーカー2社などのように、同じ業種の企業で、売り上げ規模も比較的近い企業を選出し、この比較研究から得られた情報を下に、環境ブランド構築するための成功要因を導き出していく方法を取った。比較検証には、環境報告書やWEB上から発信されている情報に加え、環境問題の専門誌に記載されている情報を使用した。
比較検証の結果、環境経営度と環境ブランドとの間に強い相関関係を見ることはできなかった。環境経営度調査において、高評価を受けている企業の中には、環境ブランド調査においては低い評価を受けているケースや、また逆に環境経営度調査においては低い評価に留まっている企業が環境ブランド調査においては高い評価を受けている企業も多数存在した。また、業界によっては、相対的に環境ブランドが高く評価される業界や低く評価される業界も存在することがわかった。
こうした結果が出る要因はいくつか考えられるが、環境ブランドで高い評価を受ける企業の共通項を探し出していくと、次の事柄が読み取れる。 (1)明確なコンセプトのキャンペーンを打つ。 (2)効果が明らかな環境配慮型製品の開発・販売。 (3)独自の環境コミュニケーションツールを保有している。 (4)すぐれた環境技術(リサイクル技術)の保有、グリーン調達へ積極的取り組んでいる。この中の内の一つにでも、強みを持つ企業のブランド評価は高い傾向にある。
「環境ブランド」の構築には、環境コミュニケーションを行う際のメッセージ性が強く求められる。また、「環境ブランド」を決定する要因としては、わかりやすさという指標が大きく関わっていることが想定される。わかりやすい環境コミュニケーションというのは、まさに消費者を意識した情報開示のあり方であり、それはこれまでのような企業側から一方的な情報開示ではなく、消費者が求める情報を消費者に理解しやすい形で提供することである。その手法はさまざま存在するが、独自に開発したコミュニケーションツールを保有することが求められている。
こうした自らの求める情報が提供されることで、消費者は満足し、そしてその企業に対する信頼感を持つようになる。企業側は、そうした消費者の反応を見て、その期待にもっと応えたいと考えるようになっていく。こうしたコミュニケーションのあり方こそ、環境コミュニケーションのあるべき姿であろう。
消費者が安心して環境配慮行動を取るためには、消費者が普段目にする情報や製品に対する信頼の証が必要であり、企業の環境ブランドはまさしくその指標となりうるものである。だからこそ、企業にとって環境という価値のブランド化が重要となるのであり、今後ますます力を入れて取り組んで行かなければならない課題なのである。
ただし、その一方で、環境ブランド力と環境経営度の乖離は、消費者の意図しないところで、環境配慮行動とはかけ離れた行動を取らせてしまう危険性があり、環境ブランド戦略を進める際には、その点に配慮する必要がある。環境ブランド力と環境経営度での評価を乖離させず、企業が積極的に環境経営に取り組んでいくことができるのか。そのことについては、今後の課題としていきたい。
2004年度インデックスに戻る
このページのトップへ戻る
多摩地域における家庭系一般廃棄物有料化政策の政策過程に関する一考察
−9市の比較分析と政策波及の動向を中心として−
中島 忍
序章 廃棄物の行方
1. 家庭系一般廃棄物有料化政策
(1) 家庭系一般廃棄物の有料化とは
(2) 有料化政策の流れ
(3) 有料化政策に関する既存研究
2. 多摩地域での有料化政策
(1) 有料化の政策波及を検証する意味
(2) 多摩地域とは
(3) 廃棄物最終処分場行政の歴史
(4) 有料化の政策波及
3. 9市の有料化政策過程
(1) 9市の概要
(2) 有料化実施までの動き
(3) 有料化実施後の動き
4. 広域的政策波及とその影響
(1) 有料化政策波及の要因と住民対応の変化
(2) 今後の課題
(3) 有料化政策の意味
終章
現在私達は様々な環境問題に直面しており、廃棄物問題もその一つとして常に急務かつ深刻な課題となっている。廃棄物減量化に対応するために注目されたのが経済的手法による減量政策であり、そのひとつが家庭系一般廃棄物、いわゆる家庭ごみの有料化政策である。有料化とは一般家庭から日常的に排出される廃棄物に手数料をかけ、住民が処理経費の一部を負担することを指し、減量効果、公平性の確保、ごみに対する意識の向上などが実施の目的である。経済発展によってごみの量・質ともに変化し、各地で最終処分場の延命化や財政圧迫が課題となった1990年代初め頃から有料化を実施する自治体が現れ始める。国も答申や提言で有料化の実施を後押しし、90年代後半には実施自治体の数は急増し、2003年の調査では42%の自治体が有料化を実施していると答えている。この間、有料化に関する研究や議論が重ねられ、有料化実施の効果はごみの減量化・公平性の確保・ゴミ処理費用の削減・住民の意識変革などがあるが、効果があるかどうかではなく、住民の理解は得られるのか、不法投棄は増加しないかなどの有料化導入の際に生じる課題に対応できるような、しっかりとした有料化施策の制度設計が必要であるとの認識が共通している。
本稿では個々の自治体における有料化政策の論点だけではなく、特定の地域で有料化が波及する場合の自治体間の相互影響や地域全体での廃棄物政策の動向などの観点から、多摩地域での政策波及における有料化政策の意味を考察する。その際、政策過程と自治体相互の関係国による政策介入の影響を複合的に説明する伊藤修一郎氏の「動的相互依存モデル」を参照し、政策波及を検証する。このモデルは内政条件、相互参照、横並び競争の3つのメカニズムによって構成されている。
多摩地域は2004年4月現在、30自治体のうち9市が有料化を実施している。多摩地域には26自治体が利用する日の出町処分場があるが、数年後には一杯になるとの予想があり、資源化率を上げるなどの対策をとってきたが、いまだごみ問題は多摩地域共通の課題になっている。1998年10月に青梅市が多摩地域で初めて指定収集袋による単純従量制の有料化を実施し、2000年10月に日野市、2001年6月に清瀬市が同方式の有料化を実施した。同年10月、多摩地域の全市の市長で構成される東京都市長会が多摩地域での有料化実施を進めていくことを表明した。この提言の後、2002年4月に福生市と昭島市が、2002年10月に東村山市と羽村市が相次いで有料化を実施、更に2004年4月には調布市とあきる野市が有料化を実施した。各自治体とも、有料化実施向けて広報でごみの現状を知らせ、住民説明会を開き、戸別収集や資源回収など有料化をサポートする政策を実施している。有料化実施後もごみ減量の促すためのPR活動を行っている。有料化実施で変化が見られるのは住民との関わり方である。住民の意識の変化や有料化政策に対する意見などを把握できた自治体では有料化実施後もそれをもとに政策の評価や変更を実行することができている。多摩地域では有料化政策が波及する要因として、有料化実施自治体が近隣自治体であるという地理的要因(=相互参照)、多摩地域をまとめる東京都市長会等の組織の存在(=国の介入)、最終処分場利用に掛かる負担金の財政圧迫(=内政条件)と、動的相互依存モデルに照らし合わせることができる。今後の課題としては単身世帯へのごみ減量のPR活動、経費負担が大きい資源化から減量化への移行が挙げられる。
多摩地域の有料化について体系化された有料化手法の多摩地域全域での共有化と高度化が必要だという意見もある。しかし廃棄物行政は各自治体の住民の考え方や自治会の存在の大きさなど住民が築いてきたものに頼る部分があり、一つのやり方で進めていくことは難しい。ならば仕組みを一つにするのではなく、廃棄物政策の目的・目標・方向性などの考え方を共有した上で有料化施策を行うことで、仕組みをまとめるよりも高い効率性を得ることができるのではないだろうか。東京都市長会の提言には目標共有の機能があったと考える。指定袋の金額設定や手法などに横並び意識が表れているのは確かだが、「延命化」「減量化」と共通の目標を認識することで、各自治体の有料化実施、高い資源化率を後押しすることに繋がった。また、有料化政策は短期的な減量効果そのものよりも、実施過程、実施後に生じる政策や地域社会の変化に価値があると考える。住民との関わり方や廃棄物に対する考え方など廃棄物政策に対する住民・行政の姿勢が変化することが有料化の政策評価につながり、より良い政策の実現が可能になる。他の自治体の状況を把握し目標を共有すること、自治体内で生まれた変化を見逃さないことが有料化政策波及には必要である。
2004年度インデックスに戻る
このページのトップへ戻る
タイにおける地域住民主体の参加型地域開発−現状と展望
−農村地域における事例調査を中心に−
水谷光一
1. 参加型開発とは
(1) 参加型開発の経緯と議論
(2) 参加型開発の促進要因と阻害要因
(3) エンパワーメントと外部者の役割
2. タイにおける住民主体の参加型開発の論議
(1) タイの参加型開発をめぐる主要ないくつかの議論)
(2) プラティープVの段階的能力開発論
(3) タイの参加型開発に見る共通した議論
3. タイの各地域における参加型地域開発ケーススタディ
4. タイ参加型地域開発の事例分析と将来の展望
(1) 事例から見る参加型開発の成功要因分析
(2) 事例に見る参加型地域開発の脆弱性分析
(3) 各事例から見る将来発展性の評価
開発の世界で従来おこなわれてきた参加型開発はいかに住民を参加させるか、あるいは動員させるか。また、専門家などの外部の者がどのように地域の開発に関与するかという外部者の参加のあり方を問うものが多かった。しかし、参加型開発の真意は住民主体でなされなければならないことが、特に90年代からロバート・チェンバース(サセックス大学開発研究所)によって提唱され、私たち外部者は不利な状況におかれている人々を力づけ、彼らに何が足りないか、そして彼ら地域住民・農民はどんなリソースを持っていて、それをどう生かすべきかを「指示棒を地域の人々に渡す」ことによって一緒に考える姿勢でなければならないというのが住民参加型開発の基本であると言う認識に変化してきた。さらに、住民主体の参加型開発プロジェクトは、途上国において下位におかれている人々を勇気付け、その人たちを優先させるような考えに基づいたプロジェクトでなければならないことを検討するべきである。本論文はこの視座において、過去の開発のあり方に問題提起をし、住民主体における参加型開発の真の姿を検討する。
タイは日本と共にアジア地域において、今日まで永年独立を保ち得た国である。そこにはタイ独特の「知恵」が人々の力づけと能力向上に大きく貢献していると考えられる。タイに根付く多くの地方に存在する豊富な知恵と資源を効果的に生かして、人々の積極性と、潜在能力を高め、地域とそこにすむ人々を開発していくためには、地域の人々の主体的な参加が不可欠である。それには地域にある独特の、または地域の特徴に合っている適正な人材、知恵、技術を有効に利用して、さまざまな能力開発をおこなう必要がある。そこに地域の天然資源と一体になり、地域の人々の潜在能力を活用していく道を探っている姿がある。本論文では、タイの人々の参加型開発地域開発の現状と将来像を考察する。
第1章では、従来の「参加型開発」に関する議論と変遷を概観し、真の住民主体の参加型地域開発にするためにはどのように要素が必要か、何が今までの開発に欠けていたのかを過去の議論を踏まえて検討する。また、参加型開発のメリット・デメリットを考察し、参加型開発によって何が生まれ、何を失いどこに向かうべきかを検討したい。
第2章ではタイの農村開発や参加型開発に影響を与えたタイの知識人による議論を紹介し、タイの人々を主役にした、参加型開発地域開発についての議論の根幹に迫り、タイの社会における住民主体の参加型開発の姿を浮かび上がらせる。特にDr. Prateep Vの能力開発の手法を紹介し、農村の能力開発について専門家の知恵から学ぶことを主とした。
第3章では、タイ全国の12の地域を対象として、タイ各地でおこなわれている草の根から、大企業に至るまでの活動において、住民主体の参加型開発事例を網羅、報告し、それらの事例で行われている活動について、資金面、人材面などのマネジメント、リーダーシップを含めた活動内容を具体的に明らかにし、対象とした事例を紹介する。
第4章では、これらの事例を検討、分析し、その中から成功要因を4つのタイプに分類すると同時に、危険性、脆弱性にも言及し、タイにおける参加型開発はどのような将来像に向かうべきか、多少の提言も含めて検討した。
以上、本論文は4章構成により、タイにおいて、これからの住民主体の参加型開発のあり方とタイにおける献身的にまた日常的に地域開発に取り組んでいる政府機関、専門家、地域住民など多くの人たちのことを、少しでも多くの皆さんに知っていただき、そして、タイのみだけではなく「住民主体の参加型開発はどうあるべきか」という議論に貢献できる論文であることを願いたい。
2004年度インデックスに戻る
このページのトップへ戻る
法政大学大学院 環境マネジメント研究科
Copyright (C) 2006 Hosei Graduate School of Environmental Management. All Rights reserved.