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法政大学大学院 環境マネジメント研究科

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2005年度修士論文要約

技術協力プロジェクトの自立発展性評価について
野澤 慎太郎
はじめに
1. 環境・化学物質モニタリングプロジェクトの現状
 (1) 環境・化学モニタリングプロジェクトの経過
 (2) プロジェクト終了時の自立発展性評価結果
2. 自立発展性に関係する要因についての検討
 (1) 要因の抽出
 (2) 相手国の国家予算に占める被援助機関ローカルコストの割合
 (3) プロジェクト運営費の依存度合い
 (4) 成果の達成率
 (5) 適正な人員配置
 (6) プロジェクトの位置づけ
 (7) 被援助機関の組織形態
 (8) 無償資金協力との連携
 (9) 日中センターと高生産性稲作技術計画の共通点について
 (10) プロジェクトの関係省庁による支援体制
 (11) 自立発展性評価指標による各プロジェクトのスコア評価 3. プロジェクトの自立発展性について
 (1) 適正な人員配置
 (2) プロジェクトの国家政策上における位置づけ
 (3) 無償資金協力の連携について
 (4) プロジェクトの自立発展性とODA担当官庁の一元化論について
 (5) 提言
我が国の援助スキームの1つである技術協力は「自助努力への支援」でありながら、技術協力プロジェクトの終了時における援助効果の持続性を評価するための指標「自立発展性」はおおむね低いのが現状である。近年、環境対応能力向上のための環境センターや化学物質モニタリングプロジェクトが新たな技術協力分野として行われているが、これらの評価結果も同様であった。

本研究では新たな技術協力分野から環境センタープロジェクト6件及び化学物質モニタリングプロジェクト2件及び比較的相手国政府のインセンティブが強いといわれる農畜水産プロジェクト10件の計18件を調査対象として、技術協力プロジェクトの自立発展性に関係する要因を検討し、自立発展性を高めるための方策を提案した。

まず、財政、組織、技術面の自立発展性及び日本の支援体制を基に自立発展性に関係のある要因を仮定した。考えられる要因として、相手国の国家予算に占める被援助機関のローカルコストの割合、プロジェクト運営費の負担率、適正な人員配置、成果達成率、プロジェクトの国家政策における位置づけ、被援助機関の組織形態、無償資金協力との連携、関係省庁の違いの8要因を仮定し、各プロジェクトの終了時評価を基にそれぞれの要因と自立発展性評価との関係を調査した。

その結果、相手国の国家予算に占める被援助機関のローカルコストについては、農畜水産プロジェクトでこの割合が大きいプロジェクトは総合的自立発展性が高い傾向があり、自立発展性の要因と推定した。プロジェクト運営費の相手国側の負担率は環境・化学モニタリングプロジェクトで63.5%、農畜水産プロジェクトで21.4%であり、これは前者のプロジェクトが中進国で行われ、かつ、高い負担率を前提としたプロジェクトであり、自立発展性評価の要因とはならないと考えられた。適正な人員配置については、配置された人員がプロジェクト進捗や効率性に貢献したと評価されたプロジェクトは総合的自立発展性があると評価されており、同様に要因の1つと推定した。成果達成率は比較的達成率が100%であるものが多かったが、達成率の低いプロジェクトは成果を活用するための組織体制が未整備であることが指摘され、技術面の自立発展性も低いと評価されており、自立発展性の要因ではないかと推定した。プロジェクトの国家政策における位置づけについても、相手国の国家開発計画や開発プログラムに明確に位置づけられているプロジェクトは総合的及び組織面の自立発展性があると評価されているが、国家政策の根拠法令が未制定であったプロジェクトやプロジェクト活動が被援助機関の通常業務とリンクしていない場合は自立発展性が低いと評価されていたこと等から、自立発展性の要因であると推定した。被援助機関の組織形態は、支援対象となった組織が既存組織/新設組織/既存組織の統合・拡充の3タイプに分けられ、総合的自立発展性があると評価されたプロジェクトの割合は、それぞれ17%、50%、100%であり、効率的な支援が期待された既存組織への支援が最も低く、既存組織の統合/拡充した組織への支援は自立発展性があると評価されており、組織形態の違いが自立発展性に影響を与える可能性があると推定された。無償資金協力との連携については、活動拠点となる建物の提供を受けたプロジェクトはいずれも総合的自立発展性があると評価されているのに対し、無償資金協力の連携がなかったプロジェクトはおおむね自立発展性が低いと評価されたプロジェクトが多いことから、これも要因の1つと推定した。関係省庁の違いでは、農林水産省と環境庁の技術協力部門の組織体制に差があり、この2省庁が関係したプロジェクトについて技術面の自立発展性評価を確認したところ、農林水産省が関係省庁であったプロジェクトの自立発展性評価が環境庁のそれより高いことから自立発展性に影響を与えるものと推定された。

次に、推定された7要因について各プロジェクトの終了時評価を基に0から最高3のスコアで再評価して量的データにした。同様に0〜2で数値化した総合的自立発展性評価及び組織面・財政面・技術面の自立発展性評価との相関性を調査した。その結果、総合的自立発展性と関係のある要因は適正な人員配置、国家政策におけるプロジェクトの位置づけ及び無償資金協力との連携の3要因であり、他の4要因は関係性が低かった。また、これらの3要因は財政面及び組織面の自立発展性との相関性がある程度認められた。さらに、技術面の自立発展性評価と各要因との相関性は低く、自立発展性評価にあまり寄与していないことも分かった。

以上のことから、プロジェクトの自立発展性を高めるためには、計画の初期段階である発掘調査や事前調査において、既存の人事異動システムがプロジェクトの進捗に与える影響、投入計画書及び本邦研修計画とカウンタパートや被援助機関の資質、職員の定着率向上についての対策、技能の維持向上のための対策について調査し、人員が適正に配置される見込みであるかを判断すべきであり、不明確な場合は必要に応じて助言や是正を求めるか、排除することで自立発展性の見込みがある案件を絞ることが必要である。 また、プロジェクトが支援する政策根拠の明確化、相手国政府側の担当省庁と被援助機関の国家政策における明確な位置づけ、被援助機関の担当する事業内容とプロジェクトが支援する具体的業務との関係について詳細に調査し、国家政策におけるプロジェクトの位置づけが明確であるかを確認することが必要である。よって、プロジェクトの位置づけが明確でない案件は計画の練り直しを求めるか、または排除する等して、最終的に自立発展性の見込みがある案件を絞るべきである。
さらに無償資金協力の連携によって建設された活動拠点を中心としての技術協力プロジェクトは自立発展性が高いことから、予定される活動拠点の法的・組織的位置づけ、ビジョン及び将来性、提供された建物と成果の有効活用を継続できる財政基盤を有する“体力のある途上国”であるかを発掘や事前調査の段階で確認し、無償資金協力の連携が適している案件であるかを精査すべきである。その結果に基づいて技術協力との連携を図ることが自立発展性を高める方策の1つであるといえる。
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ASEAN諸国におけるエネルギー地域協力
不二葦 教治
1. ASEAN諸国におけるエネルギー地域協力構想
 (1) GMS(Greater Mekong Sub-region)Program
 (2) Trans-ASEAN Power Grid(TAPG)
2. 電力供給における地域送電ネットワーク形成の意義
 (1) 電力供給の経済性
 (2) 電力供給の安定性
 (3) 電力市場の形成
 (4) 環境負荷の低減
 (5) 地方電化の推進
 (6) まとめ
3. 送電ネットワーク形成の課題
 (1) 送電ネットワーク開発計画
 (2) 送電線建設資金調達
 (3) 広域送電系統運用の安定性
 (4) 国際電力取引のルール
 (5) まとめ(課題)
4. 提言
1990年代以降、経済や貿易に関する地域統合・地域協力の動きが活発化している。地域自由貿易協定をはじめ、多くの域内経済協力の枠組みが提唱・設立されており、アジアやラテンアメリカ地域の開発途上国の開発戦略においても、地域協力が重要な分野として位置付けられている。地域協力の今日的意義については、藤田(2002)によって、@地域安全保障の強化に寄与する、Aマーケットサイズの拡大効果により貿易・直接投資を促進する、B規模の効果を生かした効率的かつ相乗効果のある開発・投資が期待できる、と報告されている。それに加えて、分野別に専門的見地から分析を行った場合、地域協力の意義は更に深まるものと考えられる。本研究は、筆者の専門分野である「電力セクター」に着目し、ASEAN諸国の地域協力プログラムの一つであるエネルギー地域協力、特に近隣諸国を送電線で結ぶ「地域送電ネットワーク」の形成と国際電力取引に焦点を当て、地域協力の意義を専門的見地から確認するとともに、地域協力プロジェクト実施に向けての提言を行うことを目的とする。

ASEAN地域の送電ネットワーク構築に関しては、中国雲南省を含むメコン川流域6カ国を対象としたGMSプログラムと、ASEAN10カ国を対象としたTrans-ASEAN Power Grid(TAPG)の二つのプログラムがある。この様な地域送電ネットワークには、以下の様な意義が認められる。

第1に、電力供給コストの低減が可能となる。例えば、カンボジアの家庭用電力料金はUS¢8.77〜16.29/kWhであるが、ラオスではUS¢0.39〜2.71/kWhである。このような電気料金の差は、電源構成(発電方式、燃料の種類)や発電所の規模の違いに起因する。カンボジアの発電は約93%を石油火力に依存しているが、ラオスでは100%が水力による発電である。両国の電力供給事情を比較すると、カンボジアでは全国規模の送電網が存在せず、需要規模が小さいため大規模な発電所の開発が困難であり、国内で利用可能な1次エネルギーは輸入石油と再生可能燃料(木材)であることから、石油を燃料とする小規模(発電所規模35MW以下)なディーゼル発電に依存している。一方、ラオスでは水力資源が豊富に存在することから、Theun Hinboun水力(210MW)をはじめとする大規模な水力発電所により電力を供給し、国際連系送電線によりタイへ電力を輸出している。このように、小規模な火力発電に依存する国では電気料金が高くならざるを得ず、発電所の開発ポテンシャルは有っても国内の需要規模が小さい場合は開発が困難であるが、地域送電ネットワークを構築することにより、大規模な発電所の開発や他国の安価な電力の購入が可能となる。

第2に、電力系統を相互に連系し供給予備力を他系統と共有化することにより、比較的少ない投資で供給信頼度を高めることが可能となる。供給信頼度を向上させるためには、供給予備力(供給力と需要の差)を増やさなければならない。供給予備力を増やすためには、発電容量を増強する必要があり、当然のことながら設備投資と維持監理費が増加する。このように、供給信頼度の向上と電力供給に係る経費は相関関係にあるため、供給信頼度を高め、かつ経済的な電力供給を行うことは、相反する命題である。これを解決する一つの方策が電力系統を相互に連系することであり、供給予備力を他系統と共有化することにより比較的少ない投資で供給信頼度を高めることが可能となる。

第3に、地域送電ネットワークの構築により地域電力市場が形成されれば、市場原理を活用することにより電力輸入国にとって電力輸入単価の低減が期待できる。二国間の国際連系のみの場合では、当該国間の交渉によって電力の取引価格が決定されるため、両国の力関係が価格形成に影響を及ぼす。二国間国際電力取引の例としてタイ−ラオス間の電力輸出入の価格を見れば、ラオスがタイへ輸出する場合の電力単価(1.22バーツ/kWh)と比較して、ラオスがタイから輸入する場合の電力単価(1.22バーツ+US¢0.5/kWh)は16%程度割高となっている。欧米諸国、我が国における電力事業の自由化は、市場原理の導入により競争を促進し、電力供給価格を低減することを目的として行われてきた。このような自由化は、2000〜2001年にかけて発生したカリフォルニアの電力危機のように制度設計の不備による電力価格の高騰を招いた例を除き、概ね価格の低減に寄与しており、市場原理を活用することにより電力価格の低減が可能となる。複数の国が送電ネットワークで連系された場合、共通の取引の場として地域電力市場が形成され、競争原理に基づき取引価格が決定されるようになることから、電力取引価格の低減というメリットが期待できる。

第4に、地域送電ネットワークの形成により、水力発電など再生可能エネルギーによって発電された電力を周辺国に供給することで、火力発電所から排出される大気汚染物質並びに温室効果ガスによる環境への負荷を軽減することが可能となる。IEAによれば、タイにおける2002年のCO2排出量は17,949万 t/年と推定されている。タイにおいて輸入される電力は、ラオス、ミャンマーの水力発電所で発電されたものであることから、仮にこれらの電力輸入が行われずに国内の石炭火力で発電された場合、CO2排出量が 271万t/年増加(+1.5%)すると想定される。水力発電所はダム建設地域の住民移転や河川の生態系に与える影響など、環境に与える負の側面を考慮する必要があるが、大気汚染物質や温室効果ガス排出の点では、火力発電所と比較して環境への負荷は格段に小さい。このようなことから、地域送電ネットワークの形成により、水力発電など再生可能エネルギーによって発電された電力を周辺国に供給することで、大気汚染物質の排出による環境への負荷を軽減することが可能となる。

第5に、地域送電ネットワークは、大規模需要地に電力を供給するのみならず、連系送電線が通過する地域とその周辺の電化に寄与することが、付帯効果として挙げられる。 以上に述べた様に、地域送電ネットワークを構築する意義は大きい。ASEAN諸国における地域送電ネットワーク構築の進捗状況、先行するEUの事例を分析したところ、連系送電線建設資金の調達、広域送電系統運用に課題が見出された。EUでは、共同体にとって有利となる送電連系プロジェクトに資金援助を行う枠組みが存在しているものの、実態としては系統連系に係るインフラ整備に必要な資金の不足が指摘されている。またEUでは過去に、送電系統運用に関する共通規則が存在しなかったこと及び送電線混雑が原因となり、2003年9月のイタリアの大停電のような大規模な停電が度々発生していた。これを受けてEUでは、共通の運用規則であるOperational Handbookの作成が進められている。一方ASEAN諸国においては、資本市場からの資金調達が困難な国が有り、また広域送電系統運用に対応できる体制が整えられていない。

ASEAN諸国において地域送電ネットワークのメリットが十分に発揮されるためには、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムなどASEANの中で経済開発の遅れた国に重点を置いた、開発援助機関、二国間のソフトローン並びに無償資金協力資金等の援助が不可欠である。また、EUのOperational Handbookに倣った共通の系統運用規則を定める必要があると考えられる。更に、連系送電線の運用と電力取引の監視・監督の役割を担える人材を育成することが急務である。
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ASEANにおける域内環境協力に関する研究
−インドネシアにおける森林火災の事例研究を通して−

榎本 直子
1. 序論
2. 1997/98年に発生したインドネシアにおける森林火災の概要
 (1) 1997/98年の森林火災の被害
 (2) 1997/98年の森林火災の原因
 (3) 1997/98年の森林火災の特殊性
3. 1997/98年に発生したインドネシアにおける森林火災への対応
 (1) インドネシアにおける森林火災対策
 (2) 周辺国における森林火災対策
 (3) ASEANの枠組みを活用した森林火災への対応
4. ASEANにおける域内環境協力の現状と展望
 (1) ASEANにおける域内環境協力に対する分析の視点
 (2) ASEANにおける域内環境協力の現状
 (3) ASEANにおける域内環境協力の展望
本稿は、インドネシアにおける森林火災の発生、国内における森林火災対策の限界、東南アジア地域における地域協力の兆しに着目し、1997年から1998年にかけてインドネシアで発生した森林火災を題材とし、国内に起源を持つが、影響は国際的である環境問題に対する地域協力の役割を模索するものである。また、本稿で議論する地域協力とは、東南アジア地域内で複数の国家が協調して推進する取り組みを示す。

1997年から1998年にかけてインドネシアで発生した大規模な森林火災は、国内の森林資源に甚大な被害をもたらした。また、森林火災に付随して発生した煙霧は、シンガポール、マレーシアにおいても、農作物の生産量の減少、健康被害、交通障害等の被害を引き起こした。ところが、インドネシアにおいては、アジア通貨危機以後、経済は緩やかに回復しているが森林火災対策に配分できる予算は限定的である。更に、森林火災の背景にある違法伐採、プランテーション開発に関しては周辺国の企業も関連している。従って、以上のような相関的な事象に対処するには周辺国を含めた地域協力が有効ではないかと考えられる。

従来、ASEANにおいては、環境分野における協調の重要性は謳われているものの、形式的な取り組みが多く、法的拘束力を持たないソフト・ローによる緩やかな地域協力を中心としてきた。しかし、1997年の森林火災を契機に地域協力が進展し、2003年には法的拘束力を有する地域協定が発効した。本稿においては、森林火災に対する地域の取り組みの兆しに着目し、その取り組みの進展の可能性と限界に問題関心の焦点をおいた。

論文の構成は以下の通りである。1章においては、事例における森林火災の原因、被害を掘り下げて考察し、森林火災の発生に至る迄の過程を解明した。
1997年の森林火災発生時には、エルニーニョによる五十年ぶりの旱魃とスハルト政権の支援を受けて発展した森林依存型産業による過剰伐採、違法伐採の影響によって例年よりも火災が発生しやすい状態にあった。加えて、森林依存型産業による野焼きの増加とこれらの産業が絡んだ企業と住民間の紛争による放火が発端となって森林火災が発生した。 更に、森林関連機関の連携不足による対応の遅れが原因で火災が拡大し、泥炭地帯の火災からは有害物質を含む煙霧が大量に発生した。1997年の森林火災はこれらの要素が相互に作用し、史上空前規模の被害をもたらしたのである。

2章は、1997/98年にインドネシアで発生した森林火災に際して実際にとられたアプローチを整理した。まず、森林火災の発生源であるインドネシアと被害を受けたシンガポール、マレーシアの森林火災への対処の仕方を概観した。また、1997年以降に成立したASEANの森林火災関連の主要政策を整理した。

2章は、1997/98年にインドネシアで発生した森林火災に際して実際にとられたアプローチを整理した。まず、森林火災の発生源であるインドネシアと被害を受けたシンガポール、マレーシアの森林火災への対処の仕方を概観した。

また、1997年以降に成立したASEANの森林火災関連の主要政策を整理した。

3章においては、2章の調査結果を踏まえて、ASEANにおける域内環境協力の現状を分析しようと試みた。更に、国内に起源があるが、影響は国際的である環境問題に対する地域協力の促進要因と阻害要因を整理した。最後に、ASEANにおける域内環境協力に関する今後の展望について見解を提示した。

地域協力が促進された要因は、シンガポールが主導した気象分野の取り組みが示したように森林火災対策の効率化が挙げられる。また、気象分野の取り組みは、森林火災の発生状況や風向きに関する情報収集を容易にし、ASEAN加盟国において森林火災の初期の段階に対策をとることを可能にした。

また、予防分野の取り組みが示したように、政策を推進する上での多数の利害関係者が存在すること及び政策の実施が各国のイニシアティブに左右されることが、地域協力の障害となった点が確認できた。この他には、インドネシアにおける政策の施行と運用状況について他国がむやみに干渉できなかった点が確認されており、ASEANの特徴である内政不干渉原則が地域協力の障害となった点が確認できた。

本稿においては、内政不干渉原則を尊重するASEANにおいて、これらの制約を踏まえてどのようにして越境性のある環境問題に対して地域協力が行われてきたのかを概観した。

ASEANにおいては、森林火災対策を始めとした越境型の環境問題に対する地域協力は発展途上にあり、ASEANの枠組みを活用した環境分野の地域協力に関する実態はほとんど知られていない。従って、ASEANにおける越境型の環境問題に対する地域協力の成否を判断するに充分な情報が存在していない。

本稿においては、以上の問題意識を手がかりにして、ASEANにおける環境分野の地域協力の課題を解明することを試み、今後の展望に関して一定の方向性を示し、有効な材料を提示できた点に意義があると考えている。
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