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法政大学大学院 環境マネジメント研究科

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2004年度修士論文要約

持続可能な社会に向けた環境報告書の在り方とは
鎌田隆利
はじめに
1. 持続可能な社会とは
 (1) 公害問題から地球環境問題へ
 (2) 地球環境問題と企業経営
2. 環境と利益
 (1) 企業の社会性と利潤追及〜二律背反
 (2) アカウンタビリティの概念と要請
3. 環境報告書の現状と規格化
 (1) 日本と欧米の現状
 (2) 情報の規格化・法制化
4. 持続可能な社会に向けて
 (1) 環境教育と企業経営
 (2) 企業インタビュー
 (3) むすび
企業の「環境保全活動」等の情報が市場で適正に評価される社会経済システムが実現できれば「持続可能な社会」の構築へと繋がり、21世紀型の社会経済システムの構築に一歩近づくことになる。システム構築実現のため企業が、「環境報告書」に取組むことは大変意義が大きい。環境経営を推進するためのツールであるこの報告書は、持続可能な社会の形成に役立つ内容を備えているのか。そして、どのような方向に進めば良いのか。ここに経営戦略上の環境報告書の重要性がある。今後、環境経営に大きな影響を与えるだろう環境教育についても加味しながら「持続可能な社会に向けた環境報告書の在り方」について論じたい。

20世紀型の企業経営では、経営者は市場経済のもとでヒト・モノ・カネといった経営資源の効率的運用を行い、収益の最大化が経営目標であった。しかし、「地球環境問題」が表出し始めた現在、社会、経済に環境を加えた3つのシステム、つまり「循環型社会経済システム」を経営者、利害関係者は考えなくてはならない。そこでは企業の社会性が重要視されるので、企業は多様な利害関係者に説明責任を負うことになる。そこで重要な役割を果たすのが環境報告書である。財務会計報告書と比較して扱う範囲も広く、対象とする利害関係者も多い。しかし環境報告書に関する国際的に共通した基準はまだない。

地球環境問題を正しく理解するためには、人間とその周辺環境との係わりを客観的かつ公平に理解しなければならない。それには、環境に対する教育・啓発が重要となる。環境教育の普及により地球環境問題の認識が深まれば、能動的行動ができるひとや世代が出現し、持続可能な社会を構築する推進力は飛躍的に増すことになる。それは、企業経営にも影響を与えることになり、地球環境問題等の社会的問題に対して、真摯に対応をしてこなかった企業は、市場から淘汰される危機にさらされることになる。経営者はこのことをよく理解し、経営を行っていく必要がある。環境教育に関する法律は、環境情報の開示を積極的に謳っている。経営者は、早急にこれらの問題を含め、総合的な情報開示システムを構築し、環境報告書との連携をとる必要がある。

そして環境報告書は、財務会計報告書の延長線上にあり、それを一元化して捉えることは循環型社会経済システムにかなうと考えられる。問題は、多様性のある利害関係者に対してどのように対処していくかである。利害関係者を大別すれば「株主・投資家・取引先」など経済的行為に関心がある者と、「消費者・地域住民・NPO」などの社会的行為に関心がある者とに分類ができる。前者に対する環境報告書とは、「環境リスク」に対する情報開示である。企業が環境汚染等を引き起こせば企業や利害関係者の被る有形・無形の損失は莫大なものになる。これらの情報開示には、行政による法制化・規制化が必要かと思われる。開示方法については、「規制主義」から「開示主義」へと移行させるのがよいだろう。開示情報に対する「信頼性」の付与については、今後、議論や検討がされ精度の高いものとなるだろう。財務会計情報との一体化については、環境や社会関連の情報が定量化に適しているとは限らないので、当初は定性情報として開示することになるだろう。また、同業種や他業種での企業間比較ができなければ、「環境リスク」の回避もできないので、先ず各業界内での整合性をとる必要がある。その後、全産業間へ移行することになる。これらの問題は、早急に対処する必要がある。

一方、後者に対する環境報告書とは、「身近な環境・社会情報」に対する情報開示である。環境教育の普及により地球環境問題に対する個人の認識が高まることは、個人でのこの問題への解決参加が考えられることである。つまり、それは個人の購買活動や情報交換活動を通して行われることになる。両者とも「持続可能な社会」を目指すことには変わりはないが、対象とする利害関係者が違うのでそのプロセスは自ずと違うものになる。ここで重要なのは、一つには、ベースとしての環境・社会・経済に対する基準あるいはガイドラインは同じであるということ。そしてもう一つには、GRIのガイドラインも述べているように、説明責任(アカウンタビリティ)を果たし、利害関係者(ステークホルダー)と体系的にかかわるということである。P・F・ドラッカーは著書「新しい社会と新しい経営」の中で「企業体が充足させている信条と価値が、社会の公言している信条と価値と矛盾する場合には、産業社会は存続しえない。(中略)しかし、社会もまた、企業体が機能し得るように組織されなければならない。(中略)われわれは、この二つの課題に失敗すれば、自由にしてかつ機能しつづける社会を維持することはできない。」と述べている。地球環境問題は、われわれにこの課題を突き付けているのである。環境報告書がその課題解決の一助になることを願うものである。
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EMS(Environmental Management System)の効果的運用
−「組織の内部コミュニケーションにおける連携」の意味と位置づけ−

山鹿砂預子
はじめに
1. 環境問題と企業経営
 (1) 公害と企業
 (2) 地球環境問題と企業
 (3) 社会的責任への発展
2. 環境経営への展開
 (1) 持続可能な企業経営
 (2) 環境問題と経営戦略
 (3) 環境マネジメントシステム
3. 組織と環境マネジメントシステム
 (1) 企業・自治体のEMS取組み事例
 (2) 大学のEMS取組み事例
 (3) 法政大学のEMS
 (4) 「事例研究」まとめ
4. EMSの効果的運用
おわりに

20世紀後半に向かっての急速な国際経済の発展は、大量生産・大量消費・大量廃棄に支えられた消費型経済社会を生み出し、公害問題から地域環境問題さらに地球環境問題へと変化拡大し、深刻化してきている。この背景をうけて1996年ISO14001環境マネジメントシステム(EMS: Environmental Management System)が発行された。日本においては導入が飛躍的に拡大している。様々な問題が浮かび上がってきており、EMSを効果的に運用することが課題となっている。

本稿の目的は、EMSを効果的に運用していくための新しい組織のあり方を考究するものであり、事例研究をもとに、組織内部の連携がどのようになされているかを明らかにしていくものである。

本稿は第4章から構成されている。第1章は、環境問題に対する企業の歴史的概観を論述した。環境問題は産業公害時代から始まり都市型公害時代、そして地球環境問題時代へと変遷してくる。それに伴い企業の対応も規制対応、消極的対応から積極的な対応へと劇的に変化してきた。そして今や環境だけではなく社会全体への責任が問われてきている。第2章では21世紀に求められる企業経営はいかにあるべきかを問い、環境経営による組織設計を議論していく。日本は産業部門において、エネルギー分野の環境効率性が低下している。持続可能な生産及び消費の進展を図るため、産業界の更なる技術革新、自主的協定などの努力が必要になっている。組織内の環境対策が重要となり内部資源を有効に活用していくことが求められる。第3節ではISO14001規格内容を分析していく。ISO14001はシステム規格であるため数値目標の達成を目的とせず、また企業が守るべき環境基準は記されていない。EMS運用で、最も重要なことは組織の環境保全体制が確立していることである。第3章は事例研究を論述する。効果的運用方法を探るため、企業、自治体、大学各組織の特徴的なところを次のカテゴリーに分類し分析した。(1) 組織構造の比較、(2) ポリシー・目標による比較、(3) 環境教育の方法による比較、(4) 側面の内容と抽出方法による比較、(5) 内部監査による比較、(6) 情報公開による比較、(7) 業績評価による比較である。効果的運用をしている組織は内部資源を有効に活用し、組織内での連携体制が確立している。第3節では、法政大学のEMSを検証する。部局がどのように取り組んでいるか実態調査を行い、内容を質的研究方法により分析、理論構築した。EMSの効果を理解するために職員にインタビューをして今後の機能的な運用のための仕組作りを析出したものである。第4章では本稿の目的であるEMSの効果的運用方法を提示する。EMSの効果とは組織の環境方針における目的を達成することである。事例の結果を検証分析した結果、EMS運用の効果を確実にするには組織構造、体制の確立が基盤であることが明確となる。そのためには業務システムとEMSを統合し、コミュニケーション経路が一体化したシステム構築を必要とする。目的達成には、明確なビジョンと業務に沿った適切な戦略を構築し、それに適合したシステム構築が有効である。戦略を支えるシステムとして組織を有効に機能させるには、次の5つの統合が必要になる。(1) 組織構造の統合。これは業務システム構造とEMS組織構造を統合することである。組織構造はシステム設計である。それは組織図に集約される。EMS組織図が業務組織図にリンクしていると効果が上がる。そこではリーダーの存在が重要となる。(2) 経営戦略の統合である。ビジョンにそっての方針と環境側面の特定は組織のビジネスプロセスに適合していることが効果的である。EMSの効果的運用はこの経営戦略(業務)の統合を意味する。そして戦略達成のために連鎖してくる様々なシステムの統合である。(3) 規則・業績評価・報酬体系の統合。EMSを本来業務に位置づけることは分掌規定に表されることになる。それは報酬に繋がり、成員へのインセンティブ確保に寄与する。(4) 組織文化の融合・教育の統合。組織文化とは組織成員間に共有された意味や価値システムである。環境文化を既存の組織文化に融合させ、環境文化を醸成することが求められる。心的状態を改変させるには、意図的に仕組まれた教育が必要である。それには組織構造の連携に沿った教育体系作りが、環境意識、知識の習得そして協働を浸透させるのに効果的である。教育のシステム化である。リーダーを中心とした学習する組織作りを目指すことであり、組織文化の醸成である。(5) 環境マネジメント技術の統合。他のマネジメント技術と組み合わせて運用していくことである。内部資源の活用では、環境会計、環境報告書などの情報開示ツールの活用が重要となる。自分たちへの環境への取組みの結果を知らせるということが非常に重要となる。それらは内部者への強いインセンティブとなるからである。統合は、個人を組織に連結させるシステムを構造的に持つことになる。

 環境経営を成功させるには理念と環境マネジメント技術、情報公開が必須である。それを可能にするには、EMSを効果的に運用し、内部資源を有効に活用することである。組織の知力の結集が必須となる。そこではいつもコミュニケーションが行われ戦略を連携させることになる。
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日系提携企業の社会的責任
−1ベトナム企業のアンケート調査結果から−

若生治美
1. はじめに
2. 企業の社会的責任
 (1) 社会的責任の概要
 (2) 企業の社会的責任
 (3) 社会的責任と企業活動の接点として
 (4) 中小企業の社会的責任
 (5) 日本企業の東南アジア進出
 (6) ベトナムの社会状況
3. 企業の社会的責任に関する現地調査
 (1) 調査対象企業の概要
 (2) 現地調査について
 (3) アンケート調査内容の分析
 (4) 実証研究結果と社会的責任論
4. おわりに
本論文は、ある海外進出日本企業の企業活動の実証的研究を通じて、企業の社会的責任と地域社会における関わりを解き明かし、企業の社会的責任を把握し、更なる課題を提言することを目的とする。

グローバル化における日本企業の特徴は、海外進出企業の多くの割合を中小企業が占めることにあり、大企業の視点からのみ展開把握することでは必ずしもその現容を客観的かつ包括的に解析したことにはならない。

本論文においては、これら日本企業固有の特徴を背景にベトナムに進出した1企業の企業活動を、企業の社会的責任と地域社会との関係性から捉え、現況を実証的に検証し更なる提言へとつなげることとした。大企業からのみ捉えられることの多い、企業の社会的責任をより地域社会と密接に接点を持つこの種の企業を通じて検証することは、本件テーマにとっても新たな意義を持つと考える。

本論分の構成は、第1フェーズとして、企業の社会的責任についての先行研究をもとに、社会的責任と企業活動の在り様についての問題点への接点を探索した。第2フェーズとして、ベトナム社会主義共和国への海外進出を行った経営協力契約に基づく企業の従業員へのアンケート調査とインタビューにもとづき、この対象企業の企業活動の概要と地域社会に与える社会的影響を、社会的責任と広義の環境問題(人を取り巻く環境)との側面から検証する。第3フェーズとして、これら実証研究を通じて得られた企業活動の実態をもとに、企業の社会的責任のありようについてまとめ、更なる提言と今後の残された課題を抽出する。

企業の社会的責任は、本業を通じての社会への貢献であり、中小企業もその例外ではない。大企業にとっては戦略でもある社会的責任も、中小企業にとっては企業活動の付帯的側面であり自然発生的な意味合いが強い。しかし中小企業の企業活動は、進出先の地域経済にとっては経済的発展への側面支援ないしは直接的支援への主要な役割りを果たすものである。

ベトナムの日系提携企業を事例と取り上げたのは、ベトナム企業「ドック・フック社」と業務提携(経営協力契約)を行なっている日本企業 株式会社「着物の職人」とに新しい企業のかたちを見たからであり、また中小企業のその一例として今回対象企業として選定した企業も上記のような状況にあたるからである。

調査対象企業は『着物の職人』本社:東京港区と、『ドック・フック社』本社及び工場:
ホーチミン市で、調査方法は「ドック・フック社」工場内にて、ワーカーを対象とした調査票調査(アンケート形式による)と、それを裏付けするためのワーカーと社長への面接調査を行なった。その他の調査としてホーチミン市内のホテルにて、「ドック・フック社」から他社へ転職した人への面接調査を行ない、さらに「着物の職人」本社にて、ベトナムからの研修生と社長への面接調査を行なった。
 アンケート調査票はワーカーの仕事に対する意識に関してその満足を問う内容のものとし、質問はフェースシートと職務属性調査、職務調査、理念調査、報酬調査、対人調査の5項目(全質問数47)である。

調査結果を単純集計とクロス集計しその分析から、ベトナムの置かれた社会的背景からは、企業として雇用を提供し、従業員の生活の安定確保に寄与し、地域社会に経済的な循環の手がかりを提供する第一義的責務を果たすことが肝要で、この観点の責務は充分に果たしていると評価できる。その他の社会的責任についても詳細な分析をさまざまな視点から行なった。

経営協力契約に基づいた2社は、人的資源への投資を最優先課題と考え、また人に付加価値をつけることで企業の真の競争力を高めようとしている。現地に根ざし、現地で認知され、より一層の社会的責任を果たすことは、結果として企業の競争力をより強固なものにしていくと考えられる。

更なる提言としては、発展途上国との関係性から捉え技術移転が究極の命題であるが、相手国への技術移転は、一方的な提供先企業の責務のみではなく、受け入れ側の効率性や効果性を高める努力が肝要でもある。これら相互の関係性を測る新たな基準の策定が課題となる。
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自由市場下における競争と環境保全の並立に係る電力事業の対応について
木村淳一郎
1. 問題の所在及び本論の目的と特徴 
 (1) 問題の所在
 (2) 本論の目的と特徴
2. 欧州連合の環境/エネルギー政策
 (1) 欧州における電力自由化の経緯
 (2) 再生可能エネルギー促進政策
 (3) 温室効果ガス削減目標と実績
 (4) 欧州気候変動計画(ECCP)
 (5) 排出権取引制度化への動き
3. EU加盟5ヶ国の電力市場概観
 (1) デンマーク電力市場概観
 (2) フランス電力市場概観
 (3) ドイツ電力市場概観
 (4) オランダ電力市場概観
 (5) イギリス電力市場概観
4. 欧州5ヶ国の電力事業者環境経営概観
 (1) Elsam(デンマーク)
 (2) EDF(フランス)
 (3) RWE(ドイツ)
 (4) Nuon(オランダ)
 (5) Scottish & Southern Energy:SSE(イギリス)
5. 欧州電力市場及び欧州事業者によるインプリケーション
 (1) 我が国の新エネルギー普及の現状及び導入・拡大への取組み
 (2) 欧州電力市場及び欧州事業社によるインプリケーション
6. 環境と競争戦略
 (1) 競争の戦略
 (2) 欧州電力事業者の「競争のドメイン」
 (3) 欧州電力事業者の「競争のドメイン」分析
7. 本論のまとめ
本論文は、今後の電力自由化の進展に沿い、我が国の電力事業者が如何に市場競争と環境保全を両立すべきかを考察するものである。先進する欧州に焦点を当て、エネルギー政策や環境政策を俯瞰し、各電力事業者による市場競争と環境保全の両立に向けた対応を確認し、示唆を考察するものである。

第1章では、EUの電力事業環境を確認する。欧州は将来の政治統合も視野に入れて、通貨統合など統合政策を進めてきたが、エネルギー分野においても単一域内市場形成に向け段階的な電力自由化にて合意が成立している。また、再生可能エネルギーの普及は環境保全に寄与するだけでなく、域内のエネルギー自給率を高め、かつ産業・雇用創出の効果があると認識され、今後の利用拡大に向け再生可能エネルギー指令が採択されている。

第2章においては、市場規模、自由化の進捗度、電源構成やエネルギー政策においてバラエティに富むEU内5カ国を抽出し、各国の電力市場や再生可能エネルギー普及政策などを確認する。デンマークは2003年に完全自由化に移行し、風力発電に重点を置いた政策を敷いている。一方でフランスは2007年に完全自由化を予定しており、原子力発電をエネルギー政策の中心に据えている。逆に、完全自由化に1998年に移行し、また原子力の放棄が合意されているドイツは、代替エネルギーの選択と環境保全の狭間で揺れている。オランダは2004年から完全自由化に移行し、熱電併給とパイプラインのネットワーク化により高エネルギー効率の社会基盤を確立している。イギリスは1999年に完全自由化に移行し、再生可能エネルギー普及のための各種施策を備えている国である。

第3章では当該5カ国における電力事業者を各1社抽出し、環境保全と市場の自由化対応の両立を俯瞰した。デンマークのElsamはその特徴を水力主体の北欧電力市場との連系に有し、北欧の豊水時には、カーボンフリーである水力発電を輸入することで自社の火力を抑制している。北欧電力は発電原価に勝っているため、経済性を追及する行為でもある。フランスのEDFは原子力を活用し、他国のような温室効果ガス抑制施策は不要である分、喫緊の課題はむしろ顧客満足度向上と認識している。ドイツRWEは、国の原子力放棄政策と環境保全との狭間で苦慮し、今後の対応指針を模索している姿が窺がわれる。オランダのNuonでは、エネルギー利用効率の追求に重きが置かれていた一方で、再生可能エネルギーの占める割合により多様な料金メニューを設定し、需要家の自発的な環境配慮行動を誘引する需要サイドの対応が顕著である。イギリスのScottish and Southern においては、同国で最大の再生可能エネルギー設備容量を保有し、風力発電容量の拡大や水力発電の設備改装の実施を通じ、更なる再生可能エネルギーの利用拡大を目指しているなど、各社の特徴が顕著に表れている。

第4章では、欧州の電力事業から得る示唆について論じる。デンマークやオランダにおける温水の広域利用は、地域経済と協調関係を構築してきた我が国の事業者ならではの経営課題として期待するものである。また、オランダやドイツで散見された火力発電におけるバイオマスや未利用エネルギーとの混焼形態も、化石燃料の消費量抑制と温室効果ガス排出量の低減に資するものであろう。更には、保有する電源別発電容量が一律ではない日本の電力事業者にとって、原子力比率の高いフランス及びEDFとその周辺国との関係、Elsamと北欧市場との関係、並びに温室効果ガス抑制策として京都メカニズムの活用に積極的なNuonの対応は今後の事業戦略に多くの示唆を与えるものである。更に、需要サイドの対応としてユニークであったNuonの再生可能エネルギーの料金メニューは日本においても一考に資するものであろう。再生可能エネルギー源を拡大するイギリスのScottish and Southernが環境配慮企業として認知されていることが顧客離れ対策として有効な戦略となっていることも違った視点で示唆に富んでいる。

第5章では、欧州事業者の対応を経営戦略の視点で整理する。競争市場において他社との比較優位を維持する源泉としての「製品ラインの幅」に注目し、横軸に電力と熱、更に電(熱)源としての燃料種別を、縦軸に環境と競争への対応策としたマトリックスを表し、各社の対応状況を表してみる。欧州の小国や小規模電力事業者はより広い「環境経営戦略の選択の幅」を有し、来る欧州電力市場の統合と自由化を控え、生き残りを模索しているように窺がわれる。

自由化に対峙する電力事業者にとって、二律背反の様相を呈しているかに見えた競争と環境保全との両立は、先進する欧州の事業者によって既に体現されている。今後の電力自由化に沿い、我が国の事業者に示唆を与えるものと思慮するものである。
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