第3章では当該5カ国における電力事業者を各1社抽出し、環境保全と市場の自由化対応の両立を俯瞰した。デンマークのElsamはその特徴を水力主体の北欧電力市場との連系に有し、北欧の豊水時には、カーボンフリーである水力発電を輸入することで自社の火力を抑制している。北欧電力は発電原価に勝っているため、経済性を追及する行為でもある。フランスのEDFは原子力を活用し、他国のような温室効果ガス抑制施策は不要である分、喫緊の課題はむしろ顧客満足度向上と認識している。ドイツRWEは、国の原子力放棄政策と環境保全との狭間で苦慮し、今後の対応指針を模索している姿が窺がわれる。オランダのNuonでは、エネルギー利用効率の追求に重きが置かれていた一方で、再生可能エネルギーの占める割合により多様な料金メニューを設定し、需要家の自発的な環境配慮行動を誘引する需要サイドの対応が顕著である。イギリスのScottish
and Southern においては、同国で最大の再生可能エネルギー設備容量を保有し、風力発電容量の拡大や水力発電の設備改装の実施を通じ、更なる再生可能エネルギーの利用拡大を目指しているなど、各社の特徴が顕著に表れている。
第4章では、欧州の電力事業から得る示唆について論じる。デンマークやオランダにおける温水の広域利用は、地域経済と協調関係を構築してきた我が国の事業者ならではの経営課題として期待するものである。また、オランダやドイツで散見された火力発電におけるバイオマスや未利用エネルギーとの混焼形態も、化石燃料の消費量抑制と温室効果ガス排出量の低減に資するものであろう。更には、保有する電源別発電容量が一律ではない日本の電力事業者にとって、原子力比率の高いフランス及びEDFとその周辺国との関係、Elsamと北欧市場との関係、並びに温室効果ガス抑制策として京都メカニズムの活用に積極的なNuonの対応は今後の事業戦略に多くの示唆を与えるものである。更に、需要サイドの対応としてユニークであったNuonの再生可能エネルギーの料金メニューは日本においても一考に資するものであろう。再生可能エネルギー源を拡大するイギリスのScottish
and Southernが環境配慮企業として認知されていることが顧客離れ対策として有効な戦略となっていることも違った視点で示唆に富んでいる。