EnglandにおけるLandscape Character Assessmentの現状とその役割についての考察
市原 朱
はじめに
1. 本稿におけるlandscapeの定義と研究の目的及び方法
(1) 本稿におけるlandscapeの定義
(2) 背景及び問題関心
(3) 研究の目的及び方法
(4) 本稿の構成
2. landscapeを評価するという試みのルーツと方法論の発展
(1) 1930年代から1960年代前半に見るlandscape評価のルーツ
(2) 1960年代後半から1970年代に見るLandscape Evaluationの発展
(3) 1980年代から現在に見るLandscape Assessmentの発展
(4) 文献に見るLandscape Assessmentの発展史
3. 現在のLandscape Character Assessmentの内容とその特徴の考察
(1) Landscape Character Assessment Guidance 2002の内容の考察
(2) Landscape Character Assessment Guidance 2002の方法論的特徴
4. England に於けるLandscape Character Assessment実施に関するケーススタディ
(1) 行政または公的機関によるLandscape Character Assessmentの考察
(2) イングランドに於ける民間主導によるLandscape Character Assessmentについての考察
5. Landscape Character Assessmentの持つ役割についての考察
(1) アセスメント結果に見る本来的なdecision support toolとしての役割
(2) アセスメントの実施過程において発生する隠れた役割
(3) Landscape Character Assessmentがより良い地域づくりに果たし得る可能性
おわりに
ここでの「landscape」とは単に視覚によって認知される風景や景色を指すのではなく人間と場所との関係の現われ、すなわち地形、地質、土壌、気候、植物相、動物相といった自然環境と長年にわたる人間の営みとの相互作用によって生み出されたものである。Landscape
Character Assessment(以下LCA)は地域をlandscapeの視点から総合的に把握することで様々な場面における判断を助け適切な決断を導くための道具であると言える。本研究はlandscape評価のルーツと方法論の発展を文献から明らかにすると共に、ケース・スタディを通じてLCAの現状とその役割について考察することで、よりよい地域づくりを進める上でLCAの実施が果たし得る可能性について明らかにすることを目的としている。
方法論の発展と共に具体的取り組みも進んでいる。政府レベルでは1993-1994年のThe New Map of
England Project(England南西部を対象に行われた実験的アセスメント)を経て1996年にはEngland全域を対象としたThe
Countryside Character Area(地域の特性によりEngland全体を159の地域に分類)が、続いて2001年にはLandscape
Typology(自然地理学的なデータを基にEnglandを地域特性によって更に詳細に分類)が作成された。2002年以降はこれらをもとにlandscapeの変化をモニタリングする試みが始まっている。各地方自治体でもLCAが進められておりCountyレベルではほぼ全ての地域で完了している。Denby
Dale及びBurwardsley、Weaverham(それぞれWest Yorkshire、Cheshireに位置するParish)に於ける事例からは住民主導の小規模LCAには住民間のコミュニケーションを促進する働き、地域に対する関心を呼び起こし帰属意識や地域への愛着を増す働きなどがあることが観察された。一方でコミュニティLCAには専門性の欠如、資金源確保が困難、結果の反映に多くのプロセスを要すること等の問題点も見られる。