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法政大学大学院 環境マネジメント研究科

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2004年度修士論文要約

ディーゼル車排出ガス規制が企業に与えた影響
−中小トラック運送業者を対象として−

田村朋之
1. 都市部における自動車排出ガスをめぐる現状
 (1) 自動車排出ガスと大気汚染
 (2) 今後の方向性と課題
2. わが国のディーゼル規制の背景
 (1) 自動車排出ガス規制の経緯
 (2) 国および自治体によるディーゼル規制
 (3) ディーゼル車公害と排出ガス規制
3. ディーゼル規制が物流業界に与えた影響
 (1) トラック輸送の歩み
 (2) 1990年代に進んだ規制緩和と競争激化
 (3) トラック運送業界の現状
 (4) ディーゼル規制がトラック運送業者に与えた影響
 (5) トラック運送業界の今後
4. ディーゼル規制の問題点
 (1) 行政による環境整備の遅れ
 (2) 自動車メーカーによる環境整備の遅れ
 (3) 各業界一体となった取り組みとは
5. 大気汚染物質の低減効果
6. 得られた知見と今後の研究課題
本論文は、ディーゼル車排出ガス規制の強化が物流業界に与えた影響を分析することを目的としている。この規制は、近年の都市部における大気汚染の一因となっているディーゼル車を対象とした環境配慮型交通政策である。2003年10月より首都圏を走るディーゼル車の排出ガスに含まれる有害物質に一定の規制値を設け、規制不適合となるディーゼル車には規制適合車への買い替え、もしくは大気汚染物質除去装置(DPFか酸化触媒)の装着が義務付けられた。このディーゼル規制は、多くの業界に影響を与えたことが予想される。その中で最も影響があったであろうと考えられる業界は物流業界である。ディーゼル車への依存度が高い物流業界では、様々な対策を強いられている。特に近年の経営状況悪化に苦しむ中小トラック運送業者にとって、規制への対応は死活問題となってしまっている現状がある。本論文ではそのような現状を述べたうえで、ディーゼル規制が物流業界に与えた影響を定量的に分析し、さらにトラック運送業者をめぐる構造上の問題点を明らかにしている。なお、本論文は以下の6章により構成されている。

まず第1章「都市部における自動車排出ガスをめぐる現状」では現代の自動車排出ガスが引き起こしている代表的な問題をとりあげ、その原因についてまとめている。自動車による大気汚染は、都市部を中心に年々深刻化してきている。近年の自動車排出ガスが引き起こす問題を具体的に見ていくと、光化学スモッグや呼吸器等への健康被害といった地域規模で影響を与えている問題と、地球温暖化のような地球規模で影響を与えている問題にわけることができる。ここではこれらの問題に対する今後の方向性として、地域規模での問題についてはディーゼル車、そして地球規模での問題についてはガソリン車の対策が求められているということを述べている。

第2章「わが国のディーゼル規制の背景」では、ディーゼル車公害の歴史にふれることにより、ディーゼル規制の背景を探っている。わが国の自動車排出ガス規制を振り返ってみると、これまでの規制はガソリン車を規制対象としたものが中心であり、ディーゼル車に関しては野放しに近い状態であったことがわかる。そのような背景から、近年はディーゼル車による大気汚染が深刻化してきており、自動車排出ガス規制の規制対象はディーゼル車へとシフトしてきている。ここではそのような背景にふれたうえで、わが国のディーゼル規制は大気汚染が社会問題化したあとの規制いわゆるエンド・オブ・パイプ型の規制であったこと、そしてそのことが多くのディーゼル車ユーザーを経済的に圧迫していることについて述べている。

そして第3章「ディーゼル規制が物流業界に与えた影響」では、ディーゼル車ユーザーの代表として中小トラック運送業者をとりあげ、ディーゼル規制がどの程度の影響を与えたのかを分析している。物流業界は1990年代に参入ならびに運賃の規制が緩和され、それにより新規参入事業者数が急増し、競争激化が起こっている。そのうえこの業界は荷主の絶対的優位が形成されているため、荷主の物流費削減要請には応じなければならず、運賃水準は下がる一方となっている。これらのことが近年の経営状況悪化につながっており、特に中小事業者にいたっては赤字が続いている現状が見られる。こうした中、開始されたディーゼル規制であるが、この規制は中小事業者にとってまさに死活問題となっている。ここでは、ディーゼル規制が物流業界に与えた影響を定量的に分析するため、業界全体の景況感と倒産事業者数の相関をグラフに表すことにより、ディーゼル規制が開始される少し前に倒産事業者数が3割ほど増加していることがわかった。この倒産事業者数の増加こそディーゼル規制の影響である。第3章ではそのような分析を行い、今後の各事業者の課題はそのディーゼル規制への対応資金をいかに回収するかであることを述べている。

次に第4章「ディーゼル規制の問題点」では、第3章で述べた倒産事業者数の増加が引き起こされた原因を明らかにするため、ディーゼル規制の問題点に着目している。倒産事業者数の急増が見られたのは、ディーゼル規制の周知期間であった。この倒産事業者数の増加は、ディーゼル規制に関してトラック運送業者をめぐる環境整備が遅れたことが影響したと考えられる。これらの結果、負担がトラック運送業者のみにしわよせされたのである。ここではこのようなディーゼル規制における構造的な問題点を明らかにしたうえで、こうした問題に各業界が早期に取り組み、事前に環境を整えた体制こそ、ディーゼル規制の"あるべき姿"なのではないかと述べている。

また第5章「大気汚染物質の低減効果」では、環境配慮型交通政策としての"ディーゼル規制"を評価するため、大気汚染がどの程度改善されてきているのかを浮遊粒子状物質濃度の推移を見て分析している。近年、わが国全体で見ると大気環境は悪化の一途をたどっている。しかし東京都内などディーゼル規制対象地域では、近年着実に大気環境の改善効果があらわれてきている。このことから、ディーゼル規制は地域的な大気汚染対策には大変有効な交通政策であると言える。ここではこうした内容にふれ、今後も各業界が一体となった形でのディーゼル規制強化を段階的に図っていくべきだと述べている。

そして最後の第6章「得られた知見と今後の研究課題」では、第1章〜第5章までで得られた知見をまとめており、そしてディーゼル規制に関する今後の研究課題も合わせて述べている。

本論文で明らかにしたように、ディーゼル規制はトラック運送業者に深刻な影響を与えた。そしてそのような影響を軽減するためにも、事前に各業界一体となった体制作りが求められる。今後もますます強化されていくディーゼル規制であるが、本論文がディーゼル規制をより意義深いものにしていくための、そしてディーゼル規制をうまく機能させていくための一助となることを願うものである。
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環境会計の動向と今後のあり方
−企業の環境会計の現状から考察−

藤井昭子
1. はじめに
2.
 (1) 環境会計の必要性
 (2) 環境会計の体系
3.
 (1) 環境会計の独自基準
 (2) 事例1:鉄道業ガイドラインの経緯と特徴
 (3) 事例2:建設業界ガイドラインの経緯と特徴
4.
 (1) 企業の環境会計実務に関するアンケート調査
 (2) アンケート結果
5.
 (1) まとめ
 (2) 環境会計のあるべき姿の提言
2005年4月には環境経営促進法により一定企業により環境報告書の作成が義務づけられる。その環境報告書の中には最近の傾向では環境会計が盛り込まれている。本来、環境会計の目的は環境投資を促進するような会計システムであり、経営を判断するためのもので、イメージアップや環境活動を説明するための外部とのコミュニケーションツールではない。しかし、現在の日本企業の環境会計情報は外部とのコミュニケーション機能ばかりが先行し、包括的な経営判断にいかされていないのが現状である。本稿はなぜ環境会計が経営に活かされないかを探りながら環境会計の動向とあるべき姿を検討したものである。

まず、第1章では多くの企業が導入の際指針としている環境省「環境会計ガイドライン」の概要や企業の環境会計導入の意図を考察しながら環境会計の必要性についてさらには最近の動向について概観した。

次に、第2章では独自ガイドライン、業界団体によるガイドラインの具体的取り組み事例を鉄道業と建設業から特徴を分析し、その効果について今後の可能性も含めて論じた。

次いで第3章ではアンケートを通して企業の環境会計実務に関する取り組みの現状や企業の環境会計に対する考え方を明確にした上で、内部管理にはなぜ利用されないか、さらには環境会計が経営に活かされないのかの問題点の考察を加えた。

そして第4章ではまとめとして新たな動向をフォローし、企業経営に直結するようなシステムの構築や環境情報の分析技法の発展など環境会計の今後の可能性を論じていく。

以上から得た結果により環境会計のあるべき姿を提言する。今後は効果的な経営指標として位置づけていくためにはどのようにしたら良いのか今後のあり方について論じていき、環境会計が外部公表情報として意味するのではなく環境保全コストを効果との対比に企業にとって内部マネジメントを強化し、経営判断の指標となるような重要な役割を持つことを指摘した。このほか (1)環境会計が企業の競争力につながるしくみ作り; (2)環境コストおよび効果の基準を確立させる; (3)産業の特徴にあった環境会計項目で効果をアピール; (4) 信頼ある第三者評価の取得と会計的意味合いの高い環境会計の成立; (5)内部環境会計の利用価値の高さを提言する。

以上により企業における環境会計の役割を明確にし、経営層の方針も考慮した上で企業経営にとってのぞましい環境会計のあり方について考察する。
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EnglandにおけるLandscape Character Assessmentの現状とその役割についての考察
市原 朱
はじめに
1. 本稿におけるlandscapeの定義と研究の目的及び方法
 (1) 本稿におけるlandscapeの定義
 (2) 背景及び問題関心
 (3) 研究の目的及び方法
 (4) 本稿の構成
2. landscapeを評価するという試みのルーツと方法論の発展
 (1) 1930年代から1960年代前半に見るlandscape評価のルーツ
 (2) 1960年代後半から1970年代に見るLandscape Evaluationの発展
 (3) 1980年代から現在に見るLandscape Assessmentの発展
 (4) 文献に見るLandscape Assessmentの発展史
3. 現在のLandscape Character Assessmentの内容とその特徴の考察
 (1) Landscape Character Assessment Guidance 2002の内容の考察
 (2) Landscape Character Assessment Guidance 2002の方法論的特徴
4. England に於けるLandscape Character Assessment実施に関するケーススタディ
 (1) 行政または公的機関によるLandscape Character Assessmentの考察
 (2) イングランドに於ける民間主導によるLandscape Character Assessmentについての考察
5. Landscape Character Assessmentの持つ役割についての考察
 (1) アセスメント結果に見る本来的なdecision support toolとしての役割
 (2) アセスメントの実施過程において発生する隠れた役割
 (3) Landscape Character Assessmentがより良い地域づくりに果たし得る可能性
おわりに
ここでの「landscape」とは単に視覚によって認知される風景や景色を指すのではなく人間と場所との関係の現われ、すなわち地形、地質、土壌、気候、植物相、動物相といった自然環境と長年にわたる人間の営みとの相互作用によって生み出されたものである。Landscape Character Assessment(以下LCA)は地域をlandscapeの視点から総合的に把握することで様々な場面における判断を助け適切な決断を導くための道具であると言える。本研究はlandscape評価のルーツと方法論の発展を文献から明らかにすると共に、ケース・スタディを通じてLCAの現状とその役割について考察することで、よりよい地域づくりを進める上でLCAの実施が果たし得る可能性について明らかにすることを目的としている。

Englandにおけるlandscape評価のルーツは国立公園の制定過程と密接に関わっている。1930年代には後の国立公園に通ずる「優れた」landscapeのリスト化が行われたが、文学や芸術を背景に一般に美しいとされる地域を切り取り保護しようとしたものであった。 Landscapeに価値判断を下そうという意識が明確に働いていたとは考えにくいが特定の地域を他の地域から区別するという行為の中にlandscape評価のルーツを見ることができる。

1949年以降、国立公園の制定が進むにつれ、地域の選定や境界の決定をめぐりlandscapeを意識的に評価しようという動きが生まれ方法論が発展して行く。1960年代は担当者の感覚に基づく非常に主観的な方法が主流であり、その反動から70年代にはlandscapeを数値化し計算式で評価するという極端な客観性追求が行われた。しかしlandscapeという複雑なものを数量的に扱うという試みは現実性に乏しく、80年代には絶対的な正確さの追求ではなく曖昧であっても評価の方法に一定の枠組みを作ることが重視されるようになる。90年代には地域指定型自然保護の限界に対する認識、国土全体としての持続可能性の追求、地域の個性の喪失と均一化に対する危機感を背景として地域の特性という概念への関心が高まり、場所の持つ個性を把握することを前面に押し出した方法論が展開される。2002年ガイドラインは、日々の生活と密接に関わり絶えず変化するものであるというlandscapeの本質に言及しており、LCAの目的はlandscapeの変化そのものを否定したり、保護や保存といったある一定の形に囚われたりすることではなく、新しい変化が地域の風土や文化を無視し破壊することなく物質的にも精神的にも豊かな地域を実現するための手助けをすることであるといえる。LCAの実施にもその結果にも法的拘束力はないが、Planning Policy Guidance(計画方針ガイダンス:中央政府の都市計画に関する政策を示したもの)の中でその重要性が明確に言及されるなどその影響力は高まりつつある。

方法論の発展と共に具体的取り組みも進んでいる。政府レベルでは1993-1994年のThe New Map of England Project(England南西部を対象に行われた実験的アセスメント)を経て1996年にはEngland全域を対象としたThe Countryside Character Area(地域の特性によりEngland全体を159の地域に分類)が、続いて2001年にはLandscape Typology(自然地理学的なデータを基にEnglandを地域特性によって更に詳細に分類)が作成された。2002年以降はこれらをもとにlandscapeの変化をモニタリングする試みが始まっている。各地方自治体でもLCAが進められておりCountyレベルではほぼ全ての地域で完了している。Denby Dale及びBurwardsley、Weaverham(それぞれWest Yorkshire、Cheshireに位置するParish)に於ける事例からは住民主導の小規模LCAには住民間のコミュニケーションを促進する働き、地域に対する関心を呼び起こし帰属意識や地域への愛着を増す働きなどがあることが観察された。一方でコミュニティLCAには専門性の欠如、資金源確保が困難、結果の反映に多くのプロセスを要すること等の問題点も見られる。

LCAの役割は本来的な意思決定補助ツールとしての役割と実施過程に付随する隠れた役割の二つに大別できる。前者はLCA結果そのものを計画の土台とすること、既存の計画を見直す際の判断基準とすること、環境アセスメント等その他の政策や河川管理等の個々の事業に対し情報を提供するデータベースとしての役割を含む。このような本来的役割は個々の地域の状態に見合った計画を可能にし、災害への配慮、周辺部との差別化等を容易にする可能性を持つと思われる。一方LCA実施過程において発生する隠れた役割の発現は住民の直接的参加が前提となる。実施過程への参加は住民及び関係者の間にlandscapeに対する共通の認識を無意識の中に作り上げると共に、住民を結ぶイベントとしての役割を持ち住民の地域に対する誇り、愛着、帰属意識を引き出すと考えられる。このようなLCAの隠れた役割はより良い地域づくりのプロセスを形作るために重要な意味を持つといえる。
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環境ブランドと環境経営度の関係性について
−戦略的環境コミュニケーションのあり方−

川添 輔
1. 問題提起
2. 環境ブランドの先行研究の検証
(1) 環境コミュニケーションの方法の変遷
(2) 環境情報開示と環境ブランド
(3) 環境配慮型製品と環境ブランド
3. 比較研究
(1) イオンとイトーヨーカ堂の比較
(2) シャープと三洋電機の比較
(3) セイコーエプソンとキヤノンの比較
(4) トヨタ自動車と本田技研工業の比較
(5) 松下電器産業とソニーの比較
(6) 環境経営度と環境ブランドの乖離が著しい企業・業界
4. 環境ブランドと企業戦略
(1) 環境経営度と環境ブランド間の相関関係について
(2) 環境ブランドを決定する要因とは
(3) わかりやすい環境コミュニケーションとは
5. 結論
近年、環境問題への意識の高まりから、多くの企業が環境問題に取り組むようになってきた。そうした状況において、企業の環境問題への対応は多様化し、これまでのような問題対処型の環境対策ではなく、環境対策への取り組みを自社の経営資源として考える企業が現れている。それは、経営戦略の中に、環境経営を取り込み、戦略的な観点から環境問題に取り組むようになった結果である。こうして経営戦略の一環として、行われるようになってきた環境経営の中で、今「環境ブランド」が注目されている。

 「環境ブランド」とは、きちんとした戦略に基づいて、消費者とのコミュニケーションを図り、自社の環境イメージを高め、それを将来の経営資源として、活用していこう明確なビジョンを持つことによって構築される付加価値の源泉である。それは企業にとって、自社や自社製品の魅力を高めるためにとても重要な要素となり、販売促進という効果だけにとどまらず、顧客をつなぎとめるロイヤルティの源としての効果も期待することができる。「環境ブランド」が企業価値として認められるようになるということは、環境配慮度によって企業や商品が選択されるということを意味し、環境問題にきちんと対応しない企業が生き残ることができない社会の到来を意味している。

 しかし、現状では「環境ブランド」を築いていくために必要な企業側と消費者側とのコミュニケーションが上手く行かない場合が多く、企業側の思うようには自社のブランドイメージを高めることができない現実がある。そして、そこには企業と消費者とが求める情報や価値観の違いなどから生じるコミュニケーションギャップが大きく関わっている。この情報のミスマッチが存在することで、消費者が環境に配慮した購買行動をとろうとする場合にも、その購買行動を阻害させる要因となりうる。そのため、この情報のミスマッチを是正し、両社の間での意思の疎通や情報の共有を行うことが早急に求められている。

つまり、環境コミュニケーションには、情報の発信側である企業側の都合だけではなく、情報の受け手である顧客や消費者などのステークホルダーが、企業からの環境情報の開示をどう受け止めているのかも重要な問題となる。よって、環境コミュニケーションにはあくまで相互理解の上になりたつ、双方向性の情報のやり取りが求められているのである。消費者が安心して環境配慮行動を取るためには、消費者が普段目にする情報や製品に対する信頼の証が必要である。企業の「環境ブランド」はまさしくその指標となりうる性質のものであり、環境という価値に関する企業と消費者間との信頼関係を表すものである。

本論文では、環境ブランド力の強い企業を抽出するために、日経BP環境経営フォーラムが行っている「環境ブランド調査」と日本経済新聞が行っている「環境経営度調査」という2つの調査結果を対比させる方法を取った。それにより、企業の実際の環境への取り組み具合と消費者が持つ環境ブランドイメージとの乖離度を確認し、その度合いが大きな企業の環境対応を比較検証することで、効果的な環境コミュニケーション方法とは何かという検証を行った。比較対象企業には、イオンとイトーヨーカ堂の小売業2社やシャープと三洋電機の電機メーカー2社などのように、同じ業種の企業で、売り上げ規模も比較的近い企業を選出し、この比較研究から得られた情報を下に、環境ブランド構築するための成功要因を導き出していく方法を取った。比較検証には、環境報告書やWEB上から発信されている情報に加え、環境問題の専門誌に記載されている情報を使用した。

比較検証の結果、環境経営度と環境ブランドとの間に強い相関関係を見ることはできなかった。環境経営度調査において、高評価を受けている企業の中には、環境ブランド調査においては低い評価を受けているケースや、また逆に環境経営度調査においては低い評価に留まっている企業が環境ブランド調査においては高い評価を受けている企業も多数存在した。また、業界によっては、相対的に環境ブランドが高く評価される業界や低く評価される業界も存在することがわかった。
こうした結果が出る要因はいくつか考えられるが、環境ブランドで高い評価を受ける企業の共通項を探し出していくと、次の事柄が読み取れる。 (1)明確なコンセプトのキャンペーンを打つ。 (2)効果が明らかな環境配慮型製品の開発・販売。 (3)独自の環境コミュニケーションツールを保有している。 (4)すぐれた環境技術(リサイクル技術)の保有、グリーン調達へ積極的取り組んでいる。この中の内の一つにでも、強みを持つ企業のブランド評価は高い傾向にある。

「環境ブランド」の構築には、環境コミュニケーションを行う際のメッセージ性が強く求められる。また、「環境ブランド」を決定する要因としては、わかりやすさという指標が大きく関わっていることが想定される。わかりやすい環境コミュニケーションというのは、まさに消費者を意識した情報開示のあり方であり、それはこれまでのような企業側から一方的な情報開示ではなく、消費者が求める情報を消費者に理解しやすい形で提供することである。その手法はさまざま存在するが、独自に開発したコミュニケーションツールを保有することが求められている。

こうした自らの求める情報が提供されることで、消費者は満足し、そしてその企業に対する信頼感を持つようになる。企業側は、そうした消費者の反応を見て、その期待にもっと応えたいと考えるようになっていく。こうしたコミュニケーションのあり方こそ、環境コミュニケーションのあるべき姿であろう。
消費者が安心して環境配慮行動を取るためには、消費者が普段目にする情報や製品に対する信頼の証が必要であり、企業の環境ブランドはまさしくその指標となりうるものである。だからこそ、企業にとって環境という価値のブランド化が重要となるのであり、今後ますます力を入れて取り組んで行かなければならない課題なのである。

ただし、その一方で、環境ブランド力と環境経営度の乖離は、消費者の意図しないところで、環境配慮行動とはかけ離れた行動を取らせてしまう危険性があり、環境ブランド戦略を進める際には、その点に配慮する必要がある。環境ブランド力と環境経営度での評価を乖離させず、企業が積極的に環境経営に取り組んでいくことができるのか。そのことについては、今後の課題としていきたい。
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