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法政大学大学院 環境マネジメント研究科

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2005年度修士論文要約

損害保険事業における環境経営の適合性に関する考察
小口 隆之
はじめに
1. 本論文の要素事項について
 (1) 環境経営とは何か
 (2) 環境経営とEMS
 (3) エコ・エフィシャンシーとは何か
 (4) 環境会計と統合化指標
 (5) 保険とは何か
2. 損害保険会社と環境経営
 (1) 損害保険会社と環境経営のかかわり
 (2) 損害保険会社の取組みの歴史
 (3) 損害保険会社におけるEMSの導入
 (4) ヒアリング結果からみる損害保険会社の特徴
 (5) 損害保険会社とCSR
3. 損害保険会社の与えうる影響力と社会的責任
 (1) 損害保険会社が与えうる影響力
 (2) 損害保険会社における社会的責任と環境経営
 (3) 損害保険会社の本業の整理
 (4) 損害保険会社の取組み事例
4. 現状の課題・問題に関する考察と提言
 (1) 与えうる影響力の行使が十分でない
 (2) エコ・エフィシャンシーの把握が困難である
 (3) エコ・エフィシェンシー向上の余地がある
 (4) 一般の社員が何をすればいいのかわかりにくい(理念と実践の溝)
5. 今後の検討課題
終わりに
「環境保護」と「経済性」は両立しうるのだろうか。環境保護と経済性の両立を図る経営スタイルとして「環境経営」という概念がある。企業が環境に配慮した行動を取ることによるメリットとして、短期的には「廃棄物の削減、生産性の向上」、長期的には「消費者の支持をえられブランド力の強化につながる」、「SRIに組み込まれることで、資金調達面で有利になる」などの効果が期待されている。近年、環境問題への関心が高まり、多くの企業が社会貢献の一環として環境への取り組みを進めている。企業活動における社会貢献を満たす要素とはどのようなものなのだろうか。特に、過度に偏った環境保護への取組みは持続的な取組みとは言えないはずだが、本当に経済と環境のバランスが取れているのだろうか。また、環境経営を実践するためのツールとして、ISO14001があり、多くの日本企業が認証取得を行っている。しかし、その実態は「紙・ゴミ・電気型」と呼ばれるケースが多く、「本業の中でのEMS」への転換期を迎えている。これも投資対効果を考えれば当然であろう。本論分では国内大手損害保険会社を対象とし、環境経営と損害保険会社の果たすべき社会的責任の関係についても考察することで、損害保険会社の環境経営の促進につながる提言へとつなげていく。

環境と経済のバランスを考える上で、エコ・エフィシャンシーという概念をもとにする。エコ・エフィシャンシーとはWBCSDの定義によると「(製品もしくはサービスの価値)/(環境への影響)」であるが、本論分では「{(経済効果)+(環境効果)}/環境投資」と定義する。

損害保険会社は金融機関の中では最も早い段階から環境経営の考え方を取り入れている。そして、今回調査対象とした損害保険会社各社は、ISO14001の認証取得をしている。その取得理由は様々であるが、各社とも「紙・ゴミ・電気型」の取組みから、より本業に近い活動へシフトしようとしていることがヒアリング結果から明らかになった。また、最近ではCSR(Corporate Social Responsibility)という概念が注目されているが、よく近江商人の「三方よし」の例が挙げられるように、この概念は特別なものではない。ISO14001の中では「環境」という言葉を「大気、水、土地、天然資源、植物、動物、人及びそれらの相互関係を含む組織の活動を取り巻くもの」と定義しており、「環境」をこのような広い概念で捉えるのならば、各社が取り組んでいる環境経営とCSRは同義である。

損害保険会社はその業務の中で、ステークホルダーに対して多くの影響を与えることができる。損害保険会社の与えうる影響力をまとめると(1) 保険金として集めた資金の運用、(2) 保険引き受け企業のリスクマネジメント、(3) 保険料の設定、(4) (特定の種類の)保険の引き受け拒否、(5) 政治への影響力(ロビー活動)、そしてフィランソロフィー(慈善活動)に分けることができる。

企業に社会的責任を果たすよう求める声は年々強まっている。企業が社会的責任を果たす活動を考える際には(1) CI(コーポレート・アイデンティティー:企業の存在理由)、(2) PA(パブリック・アクセプタンス:社会受容性)、(3) エコ・エフィシャンシー(経済と環境のバランス)、(4) ステークホルダーのCE・CS(顧客の期待、従業員を含むステークホルダーの満足)、(5) 内外ステークホルダーとのコミュニケーションの5つの要素を考慮する必要があろう。また、環境経営の概念は、企業の持続的な発展と共に、社会の持続的な発展を挙げている。さらにエコ・エフィシャンシーやステークホルダーへの配慮などここで挙げた5つの要素と共通点は多い。よって、「環境を広く捉えた広義の環境経営を実現すること」イコール「企業が果たすべき社会的責任」と言っても過言ではないだろう。

「損害保険会社が与えうる影響力」として、上記の5つの要素を満たす活動を続けていくことが企業の果たすべき社会的責任である。また、その活動は5つの要素から考えても「本業」である必要がある。よって損害保険会社の本業とは、「損害保険会社が与えうる影響力の行使」となる。

損害保険会社の取組み事例を「損害保険会社が与えうる影響力の行使」をもとにまとめると以下のようになる。(1) 保険金として集めた資金の運用として、「エコファンドの設定」、「環境ベンチャーへの投資」、「自然エネルギー促進の支援」などがある。(2) 保険引き受け企業のリスクマネジメントとしては、各社ともリスクマネジメントに関するコンサルティング会社を子会社として抱えており、有料でのサービスを提供している。(3) 保険料の設定について、東京海上日動では「企業融資の際の環境配慮度チェック」、あいおい損害保険では「ISO取得割引」、損害保険ジャパンでは「投融資時の環境面でのチェック」を行っている事例が挙げられる。また、対象が企業ではないが、各社が行っている「エコカー割引」も顧客の行動を変えうるものとして挙げておく。(4) (特定の種類の)保険の引き受け拒否としては、直接拒否するわけではないが、保険加入前に調査を行う損害保険ジャパンの「土壌汚染保険」が挙げられる。(5) 政治への影響力(ロビー活動)は、各社単独ではなく、業界団体を通じて行っている。

このように各社とも、「損害保険会社が与えうる影響力」を行使する取り組みを行っている。しかし、ヒアリング調査の結果や環境報告書を読み込んだ結果、まだ改善の余地があると考えられる。そこで、現状の課題・問題点を明らかにしたうえで、各社がより有効な取組みにするために何ができるのか検討する。(1) 損害保険会社の本業で大きな要素を占める資産の運用面で積極的な取組みが少ない。よって、保険金として巨額の資金を運用している保険会社の運用面での取り組みを強化する必要がある。その際には環境に配慮した活動を行っている企業を金融面から支援することで、環境保全効果の増大が期待できる。具体的には環境ベンチャーへの投資に新しい視点を加え、本業の保険とリンクした投資を進めることを提言する。(2) 環境投資に対する効果の把握は、その範囲が広いこともあり困難である。また、費用の集計をどうするのか、数値化できない効果をどう把握するのかなど問題点は多い。各社へのヒアリング結果からも環境という目に見えない効果の把握に対しての苦労がうかがえる。根本的な解決方法は現状見つからないが、今後の環境投資に活かすためのポイントとして、継続的な把握、自社の考える重点項目を設定し取り組んでいくことの重要性を示す。(3) 各社の取り組みを見ると、プラスのアピールを積極的に進めていない面があり、エコ・エフィシャンシーの向上の余地がある。一例として、原単位表記による広告効果の増大を例に、同じ取組みを違う角度から検討する必要性を示す。そして、エコ・エフィシャンシー向上の一方策として「自社から廃棄された紙からリサイクルされた製品を優先的に購入する」取組みを例に、新しい視点での取り組みを提言する。(4) 個人の活動と環境問題を結び付けて考えることは難しく、一般の社員が何をすればいいのかわかりにくいという問題がある。活動を無理なく結びつけるためには本業の中で取り組む必要がある。そこで、保険という本業を上流と下流に拡大した商品を開発し、社員に本業の中で取組みやすい環境を作ることで解決できるのではないだろうか。東京海上日動では保険の引き受けと支払いという伝統的な保険の機能に加えて、事故防止(上流)と事故後のケア(下流)を加えた「トータルアシスト」という商品を発売している。この商品のように、上流から下流までを結びつけた仕組みによる、汚染の予防による環境効果の増大と販売単価の上昇など経済効果の増大が期待できる。具体的には、各種保険の引き受けと事故防止のコンサルティング(上流)、事故後のサービス(下流)を結びつけた企業向け総合環境サービスを例に、仕組みの有効性を提言する。また、さらなる環境教育の推進、社内向け環境コミュニケーションの推進、仕掛けとしての業績評価制度の導入を進めることで、より本業の中で社員一人ひとりが取り組む環境ができ、理念と実践の溝を解消できる。

損害保険業界は環境問題に対して積極的に取り組んでおり、他の金融機関よりも進んだ取組みを行っている企業が多い。これからも「保険」という大きな影響力を与えうる業種として、顧客企業への環境啓発を進めていくだろう。そして、本業の中での環境配慮活動は企業にもメリットが多く、それ自体が競争優位の源泉となっていくだろう。そのためには、本論分で挙げたような提案事項を検討するなど、エコ・エフィシャンシーの向上を図る必要がある。「環境に取り組むことが企業の利益につながる」ということが、より明確に証明できれば、顧客企業だけでなく、多くの企業の考え方を変えていくだろう。そして、その先にこそ、企業の持続的な発展があり、ひいては持続可能な社会の実現につながっていくのではないだろうか。
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環境保全型農業と農産物商品価値
−「北海道クリーン農業推進運動」の事例−

岸 信
1. 序章
 (1) 研究の目的・動機・方法
2. 「食の安全」と有機農業
 (1)「食の安全」とは何か
 (2) 欧米の有機農法の発展と硝酸態窒素問題
 (3) 日本における有機農作物表示の歴史
3. 食糧生産基地・北海道における「クリーン農業」の展開
 (1) クリーン農業の推進に至る北海道農業の系譜
 (2) 「YES!Clean」認証ラベルの概要
 (3) 「YES!Clean」認証規格と有機JAS認証規格
 (4) 北海道の気候条件と低農薬栽培
4. 「YES!Clean」認証ラベルの功罪
 (1) 消費者の反応
 (2) 生産者にとっての育成コストと収益性
 (3) 食品政策として見た場合の課題点
5. 今後の課題−まとめにかえて
環境保全型農業には農業生産による環境負荷の低減と共に、消費者にとっての食の安全に繋がることが期待される。また、国内における農業生産量の多さと農業用地の広さから考えるに、食糧供給を支える生産地として北海道が持つ意味合いは非常に大きいと言える。この北海道での食の安全及び土壌環境へ配慮された農業への取組みを考えることは、国内の自然環境・食料安全保障等を語る上でも重要と言えるのではないだろうか。本論文では北海道における「クリーン農業推進運動」を事例として取り上げ、その経緯・動向をまとめたうえで、課題を明確化し提言することを目的とした。

第1章の序論に続き、第2章ではまず食の安全・安心という言葉の意味と、食の安全を確保するためのリスク分析について述べた。このリスク分析の過程では、生産者・消費者・行政など関係者全体の参加と、この関係者内での情報の共有が重要であることを指摘した。次に、環境保全型農業のもつ自然環境と人体に対する安全性の如何を論ずるに際し、硝酸態窒素の土壌残留問題にまつわる歴史についてとりあげた。ここでは結論として、肥培管理のあり方によっては有機農法・慣行農法のそれぞれに人体と自然環境を害する可能性がある点について指摘した。また、このような条件付きのリスクを踏まえたうえで、「なぜ体によいのか」という根拠が消費者にきちんと理解されうる情報提供が望ましいことを指摘した。第2章では最後に、国内の有機農産物表示の歴史をまとめ、我が国の有機農産物に関する表示が1992年の「有機農産物及び特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」の制定と、これを受けた2000年6月の「有機日本農林規格(有機JAS規格)」の施行によって法律に明文化されたという経緯をもつことを明らかにした。

第3章では、環境保全型農業への大規模な取組みの事例として、北海道におけるクリーン農業推進運動と、そこから派生した食品ラベルである「YES!clean」マークについて取り上げた。クリーン農業という言葉は「有機物の施用などによる土づくりに努め、農薬や化学肥料の使用を必要最小限にとどめるなど、環境との調和に配慮した安全・高品質な農産物の生産を進める農業」として、1991年に北海道庁によって定義付けられたものである。また、化学肥料・合成農薬の使用を可能な限り控えた、慣行栽培品と比して安全性が高いと言える農産物を対象として、2000年度から「北のクリーン農産物表示制度」が開始された。これを受けて、上記の農産物の栽培情報を知らせるための商品認証として「YES!Clean」ラベルが誕生することとなる。この「YES!Clean」ラベルでは、圃場の一定面積当たりの窒素成分量が表示されているという点が特徴的である。またこの章では、北海道において低投入持続型の農業を推進していくことの根拠として、「広大で、冷涼な気候条件のため農薬防除の必要性が低い農地」を指摘した。「YES!clean」認証商品の生産においては、慣行栽培に比べて労働力と資源の投入量を大幅に増加させることなく、農地を有効利用しながら北海道の気候条件を生かした農産物を生産することが可能だといえる。

第4章では「YES!Clean」認証ラベルの功罪と題して、その現状と課題点について論じた。「YES!Clean」ラベルに関する消費者意識調査(アンケート採取)を筆者独自に行った結果、「YES!Clean」マークを認知しているのは全体の2割弱、購入経験者は約1割に過ぎないことが明らかになった。この認識度の低さとは裏腹に、同マークの意義を説明したところ、約90%の人が「YES!Clean」商品に購入意欲を示し、表示制度の更なる推進に好印象を抱いているという結果となった。また、慣行栽培品より1〜2割高額でも購入するとの回答が全体の5割を占め、商品知識を得た上では消費者が一定の価値を認めうるという結果が得られた。次に、農産物生産者にとってのコストと収益性に関して、「YES!Clean」認証導入前後の比較分析を行った。コストとしては栽培方法の制約による肥料費・農薬費等の増額が見られる。しかし、農協による補助事業の対象となったことなどもあり、イニシャルコストの大幅な増額は見られなかった。収益性については、出荷農産物の平均単価が大幅に上昇するケースも存在した。これは商品の希少価値と流通面での要因が重なったことによる成功事例といえる。一方課題として、筆者が行った前出の消費者意識調査では「ラベル表記が小さくてわかりにくい。情報内容がパッケージから伝わってこない」という声が非常に多く聞かれた。また、「YES!Clean」商品は卸売段階では比較的高価格で取引されているのにもかかわらず、末端の消費者に対する商品訴求力を獲得できていないため、結果として小売店での積極的な販売には繋がってないという傾向が指摘できる。以上の点を踏まえて、消費者が商品ラベルから情報を読み取る過程の見直しと改善の必要性を「YES!Clean」認証ラベルの課題点として提言した。

本論文の執筆にあたり、「YES!Clean」認証制度による環境負荷低減効果の化学的な有効性を確認するために、北海道中央農業試験場に対して資料を求めた。しかし残念なことに、「環境有効性に関する経年調査が実施されていないため、資料が存在しない」というのが回答であり、「YES!Clean」制度の推奨が自然環境に対してどの程度優しいものになるかを客観的に裏付けるデータと指針が存在しないということがわかった。「YES!Clean」認証においては、同じ品目を栽培する生産者でも導入されるクリーン農業技術の種類と様式は必ずしも同一ではなく、また農薬等の使用低減率も一定ではない傾向が見られる。よって、限られたサンプルによる経年調査によって環境効果の有効性を証明することは、その責任性において問題が生じる可能性がある。消費者に対する安心感の寄与と情報提供をフォローアップしていくという点で、このような調査体制の構築が困難であることも克服すべき一つの課題であるといえる。加速する食のボーダレス化へ対応していくという意味でも、国内農産物流通の場における更なる環境整備が必要であるといえよう。
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学校環境教育に関する一考察
上崎 雅美
はじめに
1. 環境教育の変遷と現代の主な取り組み
 (1)環境教育の変遷
 (2)日本における環境教育の変遷
 (3)行政機関における環境教育の取り組み
 (4)事例調査研究 (1) 東京都の事例 (2) 沼津市の事例 
2.環境教育の理想的なあり方
 (1)問題提起
 (2)幼稚園・小学校
 (3)中学校
 (4)高等学校
 (5)環境教育を行う教師育成
おわりに
近年、学校教育の中で環境教育の重要性が叫ばれている。「総合的な学習の時間」の登場で環境教育が行われる機会が増えているが、その多くが自然体験などの体験活動を行うことが目的化したものや、環境に関わる知識のみを教える授業が行われている。  本論文では、環境教育の意味を再定義すると共に、児童・生徒が「周囲を知り考える」ことのできる教育手法について考察をした。

第1章では、環境教育の変遷と現在の行政の取り組みを考察した。環境教育が欧米諸国や日本で行われるようになった経緯、日本における環境教育の変遷、特に日本の環境教育が公害教育から始まっている点については、環境教育との相違点を明確にし、再定義した。考察の結果、公害教育は公害から身を守る術と汚染の主(排出源)を特定して企業責任を追及に終始してしまい真の原因(排出事業者の経営上のムリ・ムラ・ムダ等)を特定し、原因対策を指摘しない、即ち、エンド・オブ・パイプ対策に終始してしまうから、その部分からの発展性はない。環境教育の場合は環境悪化の原因を特定する重要性認識し、及び自分の目の前にある生活に起こっている課題に対して知恵を絞って予防処置を考える、将来的に自らにどんな影響を及ぼすのかを考えるのが環境教育であると結論付けた。次に環境教育に関わる文部科学省と環境省の政策について考察をした。文部科学省と環境省の環境教育に対する取り組み方に大きな差があることが明らかになった。また、現在の環境教育に関する取り組み事例として、東京都環境局、東京都教育委員会、静岡県沼津市役所、沼津市立沼津第二小学校にそれぞれインタビュー調査を行い、実際の現場での環境教育の実態を調査した。その調査が明らかになったことは、環境教育の場合は地域や学校長の教育方針によって取り扱われ方が全く違うということや教育委員会も一律に環境教育に関して指導や助言を行うのではなく学校からの要望があった場合にのみ対応をしているということが明らかになった。

第2章では、環境教育の理想的なあり方を考察した。まず最初に様々な事例調査から考察した現状の環境教育の問題点を改善し、児童生徒のコンピタンス(力量)の向上のためには
  • 自分の身の回りで起きていることに対して興味、関心を持たせる。
  • 人間の活動を通じて周囲の環境がどのように変化しているのかを考察する能力。
  • 大気汚染、自然保護、酸性雨、地球温暖化などの環境問題の知識の習得。
  • 周囲の状況を数値や実際の調査を通じて客観的に判断する能力の習得。
  • 様々な問題を解決に導くための問題解決能力。
  • 様々な人々と環境について議論ができるコミュニケーションスキル。
  • 他の人、他の立場の人間の意見を尊重する態度の育成
  • 忍耐力と偏見のない心の育成
  • 何故、環境が大切かを考え行動できるコンピタンス(力量)を体験的に習得
以上の視点を取り入れることが必要であると考察した。

これらの視点を取り入れた教育活動を行っているイギリスの環境教育の手法を手本として、日本での学校教育活動に反映させた場合に考察の結果から理想的と考えられる「周囲を知り考える」教育が実践でき、児童・生徒のコンピタンス向上が見込めると考え、小学校から高等学校までの環境教育指導案を作成した。教育効果を最大限に発揮するためには児童・生徒の活動内容は知識の習得と体験のバランスを取ることが重要であると考察した結果、読書活動、討論、調査、ロールプレイ・劇、事例研究、問題解決と意思決定、ブレーンストーミング、データ分析・解析・プレゼンテーション、レポートの作成、共同作業、図・表・地図の解釈、ゲームとパズルなどの生徒主体の活動を取り入れた教育指導案の作成に至った。また、環境教育を考える上では環境に関する知識も大切になってくることから各教科との連携についても考察している。環境教育の指導者育成も重要な課題であると考えた。アメリカにおける環境教育指導者の育成状況を考察した。指導者養成の際には環境に関わる幅広い知識の習得を目指すカリキュラム構成であることが明らかになった。その結果、同じ特色を持つ法政大学人間環境学部の特色を生かし、環境教育指導者を育成する方法も考察した。

最後に今後の環境教育が、継続的改善をされながら行うことの出来る教育環境の整備が必要であると提言した。今までの文部科学省の政策自体が「エンド・オブ・パイプ」型の政策で環境教育への取り組みに関してもその感は否めない。また、環境教育の指針は明示してあるが具体的な指導方法の確立に力を注いでいないために、現場の学校・教師任せになってしまう。教師の自己成長と力量のみに頼ることは限界がある。新たな教育課題(環境教育・経済教育・キャリア教育等)に対しても明確な指導手法の明示が必要だと提言する。 そして、今回考察した新たな環境教育のカリキュラムの過程を修了した生徒には、周囲の状況を把握し自ら考え、目の前にある、あるいは起こりうる問題に対して自分の力を発揮して解決してゆける能力が備わると考える。

また、今後の研究課題として
(1) 教育の質管理、学校現場のマネジメントサイクルの確立。
(2) 今回明示したカリキュラムを実践した後の教育効果の測定。
を挙げておく。
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LCAによる廃棄物処理・リサイクルの考察
−統合化手法を使った焼却灰、熔融飛灰処理の環境影響評価−

久保 博海
1. 序章
2. 資源循環型社会形成への動き
 (1)廃棄物関連法制度の流れ
 (2)資源循環型社会形成への取り組み
 (3)資源循環の現状
3. 廃棄物処理・リサイクルをめぐる問題
 (1)リサイクルの歴史
 (2)リサイクルの拡大に伴う懸念
 (3)廃棄物処理・リサイクルとLCA評価
4. LCAの枠組みと統合化手法
 (1)LCAの枠組みと意義
 (2)統合化手法開発の動向と主な統合化手法
5. 統合化手法を用いた熔融飛灰処理法の環境影響評価
 (1)インベントリ分析
 (2)統合化手法を用いた環境影響評価
 (3)環境影響評価結果の考察
6. 焼却灰処理法のLIMEによる環境影響評価
 (1)焼却灰処理〜熔融飛灰処理
 (2)トータルシステムとしての評価
 (3)エコセメントの環境貢献度の考察
7. 終章  まとめと残された課題
リサイクルは、資源やエネルギーに比べ人件費が安い時代、国では当たり前に行われる経済行為である。わが国でも、江戸時代から1960年代まで鉄や銅、古紙などが当たり前にリサイクルされていた。だが、1970年代になって、日本の経済が急成長し、一人当たりの所得も急増した。これが、資源の価値と人件費のバランスを大きく変えた。

伝統的なリサイクル産業は、廃品回収業と処理業から成り立っていたが、これらの静脈産業はいずれも労働集約産業であり、人件費が上がれば成り立たなくなる。また、所得の急増は、消費を拡大させ、それがまた経済を成長させる物質的に豊かで快適な社会を実現したが、その一方で、地球温暖化や廃棄物の増大等の環境問題を生み出すにいたった。

わが国における廃棄物の増大は深刻であり、産業廃棄物の最終処分場の残余年数は改善されたとはいえ、4.5年でしかない。日本の経済成長を可能にしてきた大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済システムからの転換は一刻の猶予も許されない状況にある。それは、大量の廃棄物を出さない、地球環境との共存可能な「資源循環型社会システム」への転換である。わが国では、「容器包装リサイクル法」と「家電リサイクル法」の二つのリサイクル法で循環型社会に先鞭をつけたが、より高度な資源循環を追及し、2000年度に「循環型社会形成推進法」をはじめ、「廃棄物処理法の改正」「資源有効利用促進法」「建設資材リサイクル法」等、一連の廃棄物・リサイクル関連法を整備し、本格的資源循環型社会への離陸を目指し始めた。

これら一連の法整備と最終処分場の逼迫を背景に、リサイクル等への取り組みは、国、地方公共団体、事業者、国民により広範かつ多様に行われ始め、新たな市場の形成や雇用拡大への動きが見られるが、一方では、具体的施策や取組みが全体として合理的になっていない等の問題も生じている。例えば、マテリアルリサイクルをサーマルリサイクルより優先するために,その向上が自己目的化し、合理的と思われないコストとエネルギーをかけている分野や経済価値が低い劣化品が生産されている事例も見受けられる。

具体的施策や取組みを合理的にするためには、リサイクルによる環境負荷低減というメリットとリサイクルコストとを客観的に評価・分析しなければならない。そのための手法としてはLCAが有効であるとされているが、本来のLCAは地球温暖化、オゾン層破壊、大気汚染や資源枯渇等様々な環境問題を総合的に評価する手法である。しかし、これら環境問題の間には、トレードオフの関係にあるものも少なくない。したがって、意思決定の手段とするためには、これら複数の環境問題をシンプルでわかりやすく、かつ、利用しやすい形に統合化して一つの指標にすることが望ましい。

この統合化手法については、世界各国で研究・開発が進められており、既に多くの手法が公表されている。しかし、特性化係数や被害化係数が自然科学的知見に基づいているのに対し、統合化係数は重み付けの過程で社会の選好に基づく主観的判断が避けられないため、透明性に欠ける等の指摘もあり、政策評価手法として社会的に認知を受けるにいたっていない。

本論文では、LCA及び統合化手法の最近の動向について概観し、統合化手法が自然科学的知見と社会科学的成果の導入により、透明性や信頼性が著しく改善されつつあることを明らかにした。その上で、代表的な統合化手法として、Eco-scarcity(スイス)、Eco-indicator99(オランダ)、EPS(スウエーデン)、LIME(日本)の4手法を選択した。

そして、この選択した4手法を使って、4つの熔融飛灰処理法(エコセメント化、埋立法、MF炉法、電気炉法)の環境影響評価を実施し、次の点を明らかにした。
  1. 各統合化手法はインパクトカテゴリの網羅性や重み付けの妥当性等の問題はあるものの、評価結果は概ね一致することから、統合化手法は廃棄物処理、リサイクル等の環境影響評価ツールとして有効であること。
  2. わが国での環境影響評価には、わが国の環境事情を反映した重み付け、環境負荷項目の網羅性及びバックグラウンドデータ等より、LIMEが最適であることを示した。
  3. 熔融飛灰処理法の環境負荷量の比較では、エコセメント化が、MF炉及び電気炉方式に比し、環境負荷が高い結果となった。しかし、エコセメントの主原料は焼却灰であることから、焼却灰処理方式としての評価実施する必要がある。

ついで、焼却灰処理方式としての環境貢献度を検証するため、わが国での環境影響評価に最適であるとの結論を得たLIME法による環境影響評価を実施した結果、次の知見を得た。
  1. エコセメント化が「単純な焼却灰処理方式」としても、また「セメント生産まで含めたトータルシステム」としても電気炉方式に比較し環境負荷が高いことを明らかにした。また、その背景等について考察し、リサイクルや廃棄物処理等には新技術の採用も必要ではあるが、既存技術やインフラの採用も重要であることを示した。
  2. 環境影響評価の際に不可避的に混入するインプットデータの不確実性による評価結果への影響を検証するには、モンテカルロ分析が、また、統合化に際しての倫理観等のモデルに起因する不確実性には、重み付けの手法が異なる3つの統合化係数による感度分析が有効であること。
  3. LIMEでの評価結果は外部コストに相当するが、本論文では環境負荷の相対的な評価とフルコストの試算にとどめた。費用対効果を見るとすれば、絶対値比較する費用便益分析よりは他の処理方式と相対比較する費用効果分析が有効であろう。

これまでの議論を通じて、統合化手法は、環境政策やリサイクル方針を進める上で有効なツールであることを明らかにした。環境政策や方針を進める側が、LCAに基づく客観的なデータを出せば、反論する側も同程度の信頼性のあるデータを出す必要があり、その過程で全体合理的な政策・方針へとつながっていくものと考えられる。
そのためには次のような制度的課題も残されている。
  1. 企業に比較し、政策評価へのLCAの導入は遅れている。政策評価へのLCA導入を促進するための調査研究が必要である。
  2. 評価事例を積み上げ、妥当性を検証する等客観性を高めるための研究が必要である。その上で、統合化係数の新たなバージョンの追加も一つの選択肢であろう。
  3. 政策評価等に使用するには、単なる数値だけでなくその裏づけとなる情報も備わっている必要がある。国としてLCAデータベースの整備、維持・運営が望まれる。
  4. リサイクルを全体合理的にするには費用効果分析が必要になるが、現状では、正確なリサイクルコストの把握が困難である。リサイクル産業の統計整備が必要である。
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