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環境経営におけるバランスト・スコアカードの応用
−Eco Balanced Score Cardの提案−
阿部 浩一
1.はじめに
2. 日本企業のEMSにおける問題点とその原因
(1) EMSの現状
(2) EMSの問題点・課題
3. BSCの手法を応用した環境経営のツール「E-BSC」の提案
(1) 環境経営とEMSの関係
(2) BSC概要
(3) BSCのEMSへの応用が可能であると考える理由
(4) BSCの応用により見込まれる効果
(5) BSCの手法を応用した環境経営のツール「E-BSC」の提案
4. E-BSCの導入が効果を発揮する企業
(1) マネジメントシステムを導入していない企業
(2) EMSを唯一のマネジメントシステムとして用いている企業
(3) 既に方針管理、目標管理制度の中に環境マネジメントを組み込んでいる企業
5. E-BSCの発展形 -統合マネジメントシステムでのBSCの応用-
(1) 統合マネジメントシステムとは
(2) 統合マネジメントシステムにおいて予測される問題点
(3) 統合マネジメントシステムのツールへのBSCの応用の可能性
6. まとめと課題
本稿ではBSCの手法を応用した環境経営のツールE-BSC(Eco Balanced Score Card)を提案する。
日本において企業の環境マネジメントシステム(EMS)規格・ISO14001の認証登録数が増えているが、環境負荷の継続的な削減や、有益な環境側面の継続的改善に関するパフォーマンスが思ったよりも上がらないという声を聞く。この主な原因は、EMSの目的がいわゆる“紙・ゴミ・電気”対策であるという誤認識や、EMSを本業と切り離して運用することを原因とする従業員のモチベーション低下と考える。
ISO14001の規格の中には従業員のモチベーション維持に結びつく全体の戦略の中での日常業務の位置付けや、実績と人事考課・報酬との関連付けに関する事項がない。また、企業の本業との関連付けは意図はされているが明記されていない。日本企業のEMSがパフォーマンスを発揮していない理由もここにあると考え、EMSへのBSC(Balanced Score Card)の手法導入が有効であろうと考えた。
BSCとは戦略の策定および実行管理の方法論であり、次の手順で目的である経営ビジョン実現を目指す。
経営を4つの重要な視点「財務の視点」「顧客の視点」「業務プロセスの視点」「学習と成長の視点」から捉える。
最初に財務戦略を策定し、業績評価指標と目標数値を設定する。
財務戦略の目標を達成できるよう、顧客の視点・業務プロセスの視点・学習と成長の視点について一貫性のある戦略を策定し、戦略間の因果関係を明確にする。そしてこれら3つの視点について業績評価指標およびその目標数値、ならびに目標を達成する為のアクションプランを策定する。
戦略目標の達成度合いを定量かつ定期的にモニタリングしながらアクションプランを実行し、業績を人事考課等に結び付ける。
策定した戦略、業績評価指標、目標数値およびアクションプランは期、または半期毎に見直す。
EMSへのBSCの手法が応用可能であると考える理由は次の2点である。
1つはビジョン実現の類似性である。顧客の視点、業務プロセスの視点、学習と成長の視点においてそれぞれ戦略を立案し目標を立て、施策を実行することにより、最終的に財務目標を達成し、ビジョン実現をねらう。一方、EMSは環境経営の重要要素である環境配慮製品、サービスの売上拡大、業務における環境配慮、環境リスクマネジメント、環境配慮に関する組織のコンピタンス、環境コミュニケーションについてそれぞれ目標を設定し、施策を実行することにより、環境効率の向上を果たし、ビジョンである企業価値の向上をねらう。すなわち因果関係のある異なる視点から組織力を高め、最終目標を達成し、ビジョン実現をねらう点が類似しているのである。
もう1つはBSCとISO14001にはトップダウンとPDCAサイクルを使用するといった共通点があり、E-BSC構築・運用においてISO14001の要求事項が適用できると考えられることである。E-BSC へのISO14001の要求事項の適用により、E-BSCを使用したEMSでISO14001の登録審査や維持審査、更新審査に合格できると考えられる。
E-BSCでは、環境効率の向上を「環境効率の視点」、環境配慮製品、サービスの売上拡大を「顧客の視点」、業務における環境配慮および環境リスクマネジメントを「業務の視点」、環境配慮に関する組織のコンピタンスを「組織のコンピタンスの視点」とする。「環境コミュニケーション」に関しては、コミュニケーションの対象とするステークホルダーを外部と内部に分け、外部ステークホルダーに対するコミュニケーションを顧客の視点、内部ステークホルダーに対するコミュニケーションを業務プロセス、及び組織のコンピタンスの視点の要素として組み込む。そしてそれぞれの視点においてBSCの手法に倣い、戦略と業績評価指標、および具体的目標数値と目標達成のためのアクションプランを策定し、ビジョン「経済と環境の両側面からみた企業価値の向上」を目指す。
環境効率の視点の戦略は環境効率の向上であり、業績評価指標は売上総利益等の財務指標を環境負荷で除算したものの採用が考えられる。環境負荷は統合指標としてLIME、EPS、エコポイント、JEPIX等があるが、これらはどれも計算が複雑で、統合された結果を見ても実際どれくらいの量の環境負荷なのか専門家以外には分かりにくい。このため、CO2排出量や投入資源量など、代表的な指標をいくつか採用し、それぞれで財務指標を除算したものの方が、一般ステークホルダーには分かりやすいものとなり、彼らから見た企業価値の向上に有効に働きかけると考える。目標数値は、E-BSC導入初年度は絶対値を、そして継続的な向上を目指すため、2年目以降は “前年度比〜ポイントアップ”といった設定方法が考えられる。環境効率の視点はE-BSCの最上位に位置するため、その下位に位置する顧客の視点、業務プロセスの視点、組織のコンピタンスの視点の全てのアクションプランが環境効率の視点のアクションプランであると言える。
顧客の視点の戦略は、環境配慮製品、またはサービスの新企画や、これらの売上拡大が挙げられよう。前者についての業績評価指標は、事業スクリーニング時に内部分析と外部分析による事業の実現可能性と、実現した場合の自社と顧客、および社会に対する実効性・貢献性についてスコアリングする、“事業参入機会リスク評価”の結果を採用することとする。実現可能性と実効性・貢献性について実行しきい値(スコアがその点を越えた場合、企画を案件化し実行するという値)を予め決めておき、実行しきい値と、それを超えた案件の数を業績評価指標とするのである。また、後者については、売上高や、市場占有率、顧客定着率、新規顧客獲得率、顧客満足度、顧客の収益性などが挙げられる。そしてアクションプランとして、製品やサービスの企画時はこの事業参入機会リスク評価を、販売時には製品のパッケージや販売員による直接説明、および環境報告書・製品パンフレットを利用した企業イメージと製品の環境性能のPRなどを、そして販売後は、先に挙げた売上に関する業績評価指標の測定、及び次回の戦略策定時に用いる反省材料の抽出などを採用することとする。
業務プロセスの視点の戦略は、環境リスク低減、業務中の環境事故ゼロ化、環境法順守、製品の開発・製造・使用・廃棄全段階での環境負荷低減、サービス受益者、およびサービス提供・企画・開発時点での環境負荷低減などが挙げられよう。これらはすなわち有害な環境側面の低減を目標としたマネジメントである。業績評価指標は特定した環境側面の環境負荷とし、これらの低減目標を具体的数値で設定する。目標設定の仕方は、法による規制値があるものは規制値以下とし、それ以外のものは前期比の削減割合や、負荷の具体的削減量などを環境側面の性質に合わせて設定すべきであると考える。アクションプランにはリスクマネジメントやマテリアルフローの改善等を採用する。そして実際の作業についてはISO14001の要求事項に基づき行う。そもそもISO14001は環境リスクマネジメントによる環境汚染の未然防止も規格の意図としており、これを満たせば業務における環境リスクや定常的環境負荷の低減を実現する仕組が出来上がると考えられる。
組織のコンピタンスの視点の戦略は、環境保全の重要性の教化、関連する環境法の教化、環境関連資格保有者の増強、環境技術に関する情報の蓄積などが挙げられよう。業績評価指標には研修後実施する試験の点数や、資格毎の資格保有者の充足人員数が考えられる。また技術に関する情報の蓄積度合いを計測する為の指標には、ナレッジ係数なる概念を提唱したい。これは担当者により編み出された新技術やアイデア、業務改善事項のマネージャーによる評価と、蓄積された件数を掛け合わせたものである。評価は、現状抱える問題解決に対する貢献度や、自社の事業の将来発展に対する貢献度などの客観的なスコアリングによって行う。アクションプランは、環境教育(座学・演習)の実施、情報管理システムを使用した環境技術に関するナレッジ・ノウハウの蓄積、資格取得奨励のための制度構築、環境関連資格保有者の中途採用などが考えられる。
そして期、もしくは半期毎に内部監査の一環として戦略の達成度合いを定量的に測定し、部署、もしくは担当者個人毎の業績評価に結びつける。また環境への取り組みの実状をステークホルダーに知らしめるべく、戦略と業績評価指標、目標数値と行った活動、及び実績について、機密事項に関係のない部分を一般公開する。このため、E-BSCは社内の環境配慮活動に関する戦略実行管理システムであると同時に、環境業績評価システムであり、かつ外部環境コミュニケーションのツールとしての側面も併せ持つことになる。
E-BSCの導入により生じると考えられる効果は、顧客の視点を設けることにより有益な環境側面が重要視されることと、次の2点による社員の環境配慮活動に対するモチベーション向上である。
1つはBSCの戦略共有化の為のコミュニケーションツールである戦略マップを用いることにより、企業戦略における環境配慮活動の位置付けが明確になり、環境配慮活動が収益と企業価値向上の要因であること、すなわち本業の一部であることが明らかになることである。またもう1つは、E-BSCにより、実績が極めて定量的に把握される為、環境配慮活動に関する公平かつ客観的な業績評価が可能になることである。
E-BSCは、マネジメントシステムをまだ導入していない企業や、EMSを唯一のマネジメントシステムとして使用している企業に導入の効果が見込まれる。これらの企業は、まず環境配慮活動の戦略実行管理及び業績評価システムとしてE-BSCを導入し、徐々に管理対象を拡張し、最終的に企業活動全体の戦略実行管理及び業績評価システムに発展させることができると考える。また、E-BSCの発展形として、EMSやQMS、OHSMS、ISMS等を統合したいわゆる統合マネジメントシステムのパフォーマンス向上のためのツールとしての像が浮かび上がる。統合マネジメントシステムは、環境・品質・労働安全衛生・情報管理等に関するマネジメントシステムの重複部分を一本化し、スリム化と効率化を狙うものであるが、本業と切り離した運用を行った場合、これらの活動に関する社員のモチベーションが低下する可能性がある。これに対してもBSCを応用し、本業との関連を明確化すれば、社員のモチベーションを向上させ、これより諸活動のパフォーマンスの向上が実現できると考える。この場合、環境効率を含んだCSRの視点を最上位に据え、社会的企業価値向上といったビジョンを実現する為のツールとなるであろう。
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カーボンファイナンスの評価と今後の可能性
尾崎 雅彦
1.はじめに
2.気候変動による影響と京都メカニズム
(1) 気候変動による影響
(2) GHG排出抑制の取組み
(3) 京都メカニズムの概要
(4) CDM実施フロー
(5) 京都メカニズム上の諸リスク
3.カーボンファイナンスの現況
(1) カーボンファイナンスの現状と今後の見通し
(2) 我が国企業の温暖化防止に向けての取組みと排出権買取手段
4.排出権取引の今後の見通し
(1) 市場形成の見通し
(2) 需給動向
(3) 価格動向
5.カーボンファイナンスの有効性
(1) 数量メリットの実現可能性
(2) 価格メリットの実現可能性
6.カーボンファイナンスの今後の可能性
(1) マクロ経済的意義
(2) 国際排出権買取における課題
(3) 国際排出権買取における課題
(4) 国際排出権買上システムの応用による国内排出抑制制度補完の可能性
地球温暖化問題は年々深刻の度を増しており,世界規模の温室効果ガス排出抑制制度である京都議定書の重要性は高まっているが,同議定書には制度設計的観点において公平性や実効性の点で調整すべき問題が多々残されており,十分に機能するにはまだ時間を要する.そのため,京都メカニズム(各国に課された排出抑制目標の達成促進を目的に導入された市場原理に基づく排出権取引)およびそのバリエーションであるカーボンファイナンス(契約により将来発生するであろう排出権を買取る行為)の実行は各経済主体にとってリスクが高く,活発な取組みは未だ行われていない状況にある.モンテカルロ法によるシミュレーション分析を用いて企業レベルでのカーボンファイナンスの有効性が定量的に確認され,また,いくつかの課題をクリアできれば部分均衡分析的観点でマクロ経済的にもプラスとなる可能性がある.さらに国際排出権の買取手段として考えられているカーボンファイナンスの買取プロセスを国内で応用することにより,国内排出抑制制度補完のためのスキームに応用できる可能性があると考えられる.
京都メカニズムは,@CDM,AJIおよびBETと呼ばれる3種の排出権取引スキームをその内容とする.CDMは途上国でプロジェクトを実施し,実施前想定排出量と実施後排出量を比較して確認された削減効果を排出権として売買できるとするスキームであり,その排出権をCER(Certified Emission Reduction)と呼ぶ.JIは削減義務を負った国間においてプロジェクトベースで排出枠を売買する取引を言い,そこから得られる排出権をERU(Emission Reduction Unit)と呼ぶ.そしてETは排出枠そのものを売買する取引である.これらスキームにより,総排出枠を拡大することができる.そのうちCDMは排出量削減義務を負う第1約束期間(2008〜2012年)に入る前にCER取得が可能であるため,当面の間,排出権取引はCDMが中心となる.CDMは計画策定からCERが発行されるまでに約2〜5年を要するが,一般的には手続きの進行とともにリスクは低下し,それに伴い取引価格は上昇する.最終的に完成品であるCERとなるまでのプロセスにおいて様々なリスクを負った仕掛品と言える権利が存在し,それらもすべて売買の対象になる.
京都メカニズムから生まれたCER等排出権(以下国際排出権)の取引は,これまでは制度上の不確実性等のため売り手,買い手ともに様子見ないしは手探り状態にあった.今後はそれらが徐々に解消され,相対取引数が増加,契約条件の標準化や相場観形成が進展し,また先行するEU市場の成立や京都議定書の発効に刺激され,ワールドワイドの排出権取引市場は離陸期を迎えるものと思われる.そして第1約束期間に入ると政府または企業は排出権必要量の確保を実際問題として扱う立場に置かれ需要は増大し,取引価格相場を上昇させつつ,必要なときに必要な量の排出権を購入できる世界規模の市場が形成されている公算が大きい.しかし,前述の通り国際排出権が生ずるまでには多様なリスクがあるため,上述見通しにもかかわらず十分な流動性が得られず第1約束期間中に市場が成立しない可能性もある.省エネ効率が高くGHG限界削減費用が高い我が国では目標達成のために京都メカニズムの活用は不可欠であるので,その恐れを考慮すれば市場成立を待たずに排出権取引のバリエーションであるカーボンファイナンス(契約により将来発生するであろう排出権を買取る行為)に積極的に取組むことが必要となる.
モンテカルロ法によるシミュレーション分析を試みたところ,リスクがある行為とはいえ相応の案件選別能力がありかつ中期的に取引価格相場の上昇が見込めれば,完成品でないためにリスクのある(しかし低価格の)排出権を取引対象としてもポートフォリオを組むことが可能であることが確認できた.
カーボンファイナンスを通じ,市場の成立時期にかかわらず我が国企業が自社内でのGHG削減より低いコストで海外から国際排出権を買取ることができれば,経済学で言う買い手余剰が得られ,その効果が多くの企業で受けられれば我が国全体の排出量削減に係るコストは低減し京都議定書遵守の可能性が高まる.
京都メカニズムを我が国で活用するためにはいくつかの課題がある.低価格で国際排出権を買取るスキルを先行的に得た一部企業が最終需要者(経済活動を維持するために排出権を必要とする経済主体)に高く売ろうとする寡占的支配力を持つ転売者となった場合には,最終需要者は転売者が提示する価格まで自社内で削減を行うことを余儀なくされ買い手余剰は減殺される.転売者は最終需要者と異なり利益が出る限り海外で排出権を買取り続けようとするであろうから,仮需を生み海外市場での相場をつり上げる可能性があり,最終需要者の余剰は一層減少する悪循環となる虞がある.また,同議定書の目標が達成されたと認定されるためには政府の排出権口座に目標値をオーバーした排出量をキャンセルするに足る排出権が入っていることが必要であるので,モチベーションを下げることなく企業から政府の口座に移転するスキームが必要となろう.この二つの課題をクリアするスキームとして政府買上が考えられる.最終的な取得者として政府が存在することにより,国際排出権の買取主体に確実なEXITが与えられ多数の企業の参入を促し,寡占的買取主体の出現は抑制される.また妥当な価格設定がなされれば転売者の過剰な利益発生の抑制と,政府の排出権口座へのスムーズな移転が行われる可能性がある.一方,政府にとっても十分な原資確保ができれば,自らが直接買取るよりも高い効率で,また外交的なバイアスがかかることなく必要な国際排出権を獲得できる可能性がある.
また,現在,国内排出抑制制度の検討が行われているが,仮に国際排出権買取スキームを国内での排出削減プロジェクトに応用できれば,事業主体の削減意欲を高めるだけでなく,ESCO事業と同様に他企業による協働関係も期待できよう.
しかし,これら政府買上には,市場を歪めない妥当な価格の設定,原資確保および買取対象選定の基準策定等の検討課題があり,今後,効率性,公平性および実務的実現性の観点で詳細な理論的,実証的検討が必要になろう.
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地球観測衛星データの市場性に関する調査・分析
亀井 雅敏
1. はじめに
2. 人工衛星による地球観測
(1) 地球観測衛星の概要
(2) 衛星データの利用範囲
(3) 衛星データのビジネスモデル
(4) 衛星データの価格設定
(5) 衛星データ提供までにかかる固定費
3. 衛星データの市場規模
(1) 世界の市場規模
(2) 日本の市場規模
4. 需要傾向の分析
(1) 分析の方法
(2) 価格と需要との関係
5. まとめ
6. さいごに
地球観測衛星によって取得された地球の観測データ(以下,「衛星データ」と言う)は様々な分野で利用されているものの,いくつかの問題点が指摘されている.特に観測データの継続性の欠如が指摘されており,継続性が確保されなければ,衛星データがシステムの根幹を成すような中心的かつ恒常的なデータソースとして利用されることは難しい.本稿では,このような継続性に関する問題を解決し,衛星データの効果的な利用拡大に寄与することを目的とし,衛星データの継続的な利用について経済的な観点から考察を行った.
本稿で対象としたのは地球観測衛星が取得した衛星データであるが,地球観測衛星にも様々なものがある.本稿では,「高度1,000km以下の低軌道を周回し,地表面の様子を観測する衛星が取得した観測データ」を対象とした.
衛星の開発・打ち上げ・運用を行い,その衛星が取得したデータの受信・処理・販売を行うという一連の事業は,3種類のビジネスモデルに分類することが可能である.@ 純粋な政府モデル(政府が,衛星や地上を含めたシステムの開発にかかる費用を出資し,そのシステムを運用し,データの所有権を持ち,データの配布を行うモデル),A 純粋な商業モデル(民間企業が,衛星や地上を含めたシステムの開発にかかる費用を出資し,そのシステムを運用し,データの所有権を持ち,データの配布を行うモデル),B ハイブリッドモデル(政府と民間企業が共同で出資するモデル)の3つである.政府モデルの衛星の分解能は概ね10m以上のものが多く,商業モデルの衛星は分解能が1mクラスの高分解能衛星である.総じて,政府モデルに該当する衛星の分解能は低く,商業モデルに該当する衛星の分解能は高い.ただし,衛星データ市場においては,どのモデルであっても政府が果たす役割は大きく,商業モデルの場合は企業が健全な経営をする上で大変重要な要素となっている.
衛星データの価格設定方法は7つに分類することができる.すなわち,@ 全てのユーザーに無償提供(データ配布の時点で,いかなる料金も発生しないモデル);A 全てのユーザーに限界費用価格で提供(基本的なインフラを除き,データ提供の上で発生する経費を回収するための費用をユーザーから徴収するモデル);B 市場価格もしくは実現可能価格(売買当事者間で合意された価格設定のモデル);C 全ての費用を回収する価格(衛星の開発・打ち上げ,地上設備,営業費用など,データ提供にかかる全ての費用を回収しようとする価格設定);D 二重価格(通常は市場価格でユーザーにデータを提供し,研究者など特定のユーザーには限界費用価格で提供する価格設定モデル);E アクセス・キー・価格(衛星データ自体は無償で提供し,そのデータを暗号化することによって,アクセス・キーを購入したユーザーしか利用できなくするもの);F 情報コンテンツ価格(衛星データ自体に価格を設定するのではなく,そのデータに含まれている情報コンテンツに着目して価格を設定するモデル),以上7つのモデルである.@の無償提供とCの全ての費用を回収する価格では,当然ながら販売価格で大きな差が生じる.開発から運用,データ販売にかかる経費全てを民間企業が賄うにはCのモデルを採用せざるを得ない.この経費の一部あるいは全てを政府に援助してらうことができれば,民間企業も他のモデルを選択することが可能となる.つまり,どのモデルで価格が設定されるかは,その衛星の開発や運用費のうち,どの程度を政府が拠出しているかに依拠している.
衛星データの市場性を明らかにするため,まず衛星データの市場規模を調査した.世界における衛星データ市場の規模や将来の予測は,いくつかの企業や組織が見積もっているが,その数字には大きな開きがあるが,主要な衛星データ販売企業の売り上げから,現在の衛星データの市場規模は5億ドル前後ではないかと類推できる.今後の市場の成長率については,2010年まで年率10%前後の割合で成長すると予測されている.日本における衛星データの販売は,1999年度までは,財団法人リモート・センシング技術センター(以下,「RESTEC」と言う)がほぼ独占的に行ってきた.RESTECのデータ売り上げは1990年度が約4億円で,その後2000年までは徐々に上昇した.日本全体の市場規模は民間企業が参入した2000年度以降に急成長しており,年率30%前後の成長を達成し,現在では40〜50億円の規模である.
次に,日本における衛星データ市場の一部を占めるRESTECのデータを抜き出し,データ製品価格と販売量との関係について分析を行った.使用したのは,RESTECの2004年度のデータ売り上げに関する情報である.RESTECは,前述のように2000年以前は日本における衛星データの販売を独占的に担っていた.2000年以降は民間企業の参入によってシェアは大きく下がったが,参入企業が概ね1,2種類の衛星データしか取り扱っていないのに対し,RESTECは,企業が扱っている衛星データを含め,日本で入手できる衛星データのほとんど全てを取り扱っている.地球表面を観測している光学センサーおよび合成開口レーダー(SAR)によるデータを対象とし,これらのデータを1つの市場として扱うことができると想定し,分析を行った.
衛星データの需要の傾向を分析するにあたり,衛星の販売単価を同じ単位で比較する必要があるため,1シーンあたりの販売価格をシーン面積で割ることによって,1 km2あたりの価格が求めた.また,販売された総面積を販売量として扱うこととし,両者の関係について回帰分析を行った.その結果,1km2あたりの単価をx,販売量をyとしたときの,単価と販売量との間には強い相関関係が見られ,単価が下がれば販売量が伸びていることがわかった.次に,分解能が10mより高いものを「高分解能」,10mよりも低いものを「中分解能」と分類し,それぞれの回帰線を別個に表したところ,中分解能データはR2の値が非常に低くなった.高分解能データは価格と需要量との間に相関関係が見られたが,中分解能データでは両者の間の相関性はあまり無いと言える.なお,2000年以降に日本の市場に参入している民間企業が販売しているのはほとんどが高分解能データである.従って,中分解能データに関するRESTECの売り上げの分析結果は日本全体の市場とほぼ一致する.中分解能データについては,日本の市場全体において,価格と需要量との間で相関関係が無いということが言える.高分解能データについては,日本の市場規模はRESTECの売り上げの数倍以上である.仮に,他の民間企業の販売結果がRESTECのそれと同じようなものであれば,日本の市場全体において,高分解能データには価格と需要量との間に相関関係があるということになる.
上記の分析結果を高分解能データと中分解能データごとにまとめると,中分解能に比べ高分解能データは商業性が高いということがわかった.高分解能データは市場規模が急速に成長しており,価格と需要量との間に相関性が見られるため,価格を下げれば販売量がさらに増大し,民間企業の競争によって市場がさらに拡大する可能性がある.重要なのはサステイナビリティであるが,商業衛星の場合は経費を回収できるか,政府衛星の場合は政府が資金を拠出し続けられるかが問題である.本稿で行った調査では,衛星の分解能と固定費(開発・打ち上げ費)との間に明確な関係は認められなかった.従って,高分解能衛星と中分解能衛星の開発・打ち上げを実施する固定費に大きな変化は無い.商業性の高い高分解能データの分野であれば,このような固定費の回収は可能であると筆者は考える.しかし,それを明らかにするためには更なる調査・分析が必要である.本稿では限られた情報の中で分析を行い,価格と需要との関係を認めることができた.今後,より詳細かつ多くの情報を調査することにより,商業衛星システムの経済的なサステイナビリティをさらに詳しく分析することができるだろう.
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我が国における再生可能エネルギー利用の現状と課題
‐家庭におけるグリーン電力導入推進への提言‐
沖 健太郎
1. はじめに
2. エネルギー需要と再生可能エネルギーの特徴
(1) エネルギーの定義と需要
(2) 再生可能エネルギーの定義と特徴
(3) 再生可能エネルギーの開発の重要性
(4) 再生可能エネルギーの導入支援策
3. 家庭におけるエネルギー需要とCO2排出の推移
(1) 家庭部門の位置づけとエネルギー需要の推移
(2) 家庭におけるCO2排出の推移と削減への取り組み
4. グリーン電力プログラムの拡大と現状
(1) グリーン電力プログラムの概要
(2) 海外のグリーン電力プログラム
(3) 我が国のグリーン電力プログラム
(4) グリーン電力プログラムの課題
5. 結論
(1) 家庭における再生可能エネルギー導入の意義
(2) 提言
(3) 今後の研究課題
本論は、京都議定書発行に伴い、環境政策上重要な課題となっている地球温暖化防止対策として期待される、再生可能エネルギー技術の「今日的意義」と、「導入推進上、考慮すべき問題」を明らかにすることを目的としている。
第1章では、我が国の再生可能エネルギー利用の現状と、依然としてエネルギー源の認識が困難である我が国のエネルギー供給の現状といった背景を整理し、トレーサビリティを重視した「選エネ」行動による、再生可能エネルギーの導入推進の可能性を提示している。
第2章では、身近な言葉ではあるが、存在として感じることが難しい「エネルギーの定義」と、増加をたどる「エネルギー需要」の現状を明らかにした。次に、我が国の政策用語である「新エネルギー」と「再生可能エネルギー」の違いを明確に整理し、再生可能エネルギー設備の分析を行った。それにより、エネルギー生産時に少ないCO2排出といった「クリーンな技術」という特徴と、「エネルギー出力形態」を整理し、「地球温暖化防止との関連性」を明確にした。さらに、再生可能エネルギーを普及推進するうえで、欧米各国の「政策の事例」を整理し、「初期コスト支援型」「売買支援型」「導入誘導支援型」「財源支援型」「市場整備型」に分類し支援政策の把握を行った。そこで、我が国が実施する導入誘導支援型の「RPS法」を精査することで、我が国の再生可能エネルギーへの支援政策の把握を行った。
第3章では、再生可能エネルギーが、RPS法により政策的に「市場に委ねられたことに着眼」し、市場におけるプレーヤーである、私たち個人が、どのようにして再生可能エネルギーを利用するかを、「家庭」という括りで検討にあたった。それには、あらためて家庭における、「用途別エネルギー消費」「エネルギー源」等の「エネルギー利用形態の分析」を行い、電力需要の増加が顕著であることを導いた。また、「環境に関する生活者の意識調査」(博報堂)などの調査報告をもとに、個人として「グリーンエネルギーを積極的に導入したい」という高い「選エネ」のニーズを紹介し、再生可能エネルギーの持つ「エネルギーの出力特徴」と家庭との接点に「電力」を明確に位置づけた。これにより、家庭で再生可能エネルギーを利用するには、高いシェアを誇る「電力利用」の変革の必要性を導いた。
第4章では、家庭への導入を目指し、「グリーン電力」の概要と市場について調査し、グリーン電力の現状について整理している。
以上から、5章の結論では、「導入推進上、考慮すべき問題」として、『再生可能エネルギー導入推進は、政策の選択により、大きな方向性の違いが生まれる』ということを、事例と我が国の「RPS法」を精査した結果をもとに明らかにした。我が国は、数ある支援政策の中から「RPS制度」という「導入誘導型」の支援策を選択し普及促進にあたっている。この「RPS法」により、再生可能エネルギー(新エネルギー等電気)により生まれる電力に対して「RPS相当量」という通常の電気に加え、付加価値を明確に位置づけた。それにより「RPS相当量の取引」という新たな市場が生まれ、再生可能エネルギーを市場競争社会へと送りだした。しかし、この新たな市場は「RPS法」により、2003年の実績では、販売発電量の「0.39%」、2010年の目標値は、「1.35%」と、導入目標値により市場規模を制約され、導入推進政策として生まれたはずの「RPS法」により、導入推進に法的制限を設けブレーキをかける形となっており、ドイツなどのEU諸国で導入されている「固定売価格買取り義務(FIT)」との違いが明確となった。
次に、再生可能エネルギーの「今日的意義」としては、再生可能エネルギーが持つ特性により生まれた「グリーンな電力」の選択を推進することこそ、再生可能エネルギー導入を促す一つの方策と導いた。確かに、「需要家の支払い意思」に支えられるわずかなニーズともいえる。しかし、社会環境の変化に伴い、進んで再生可能エネルギーを利用しようとする動機が生まれつつあるのは、「LOHAS」といった新たな生活スタイルの浸透をみても、環境への意識の高さは、明らかに向上しているといえる。今日、エネルギー需要の増加により、京都議定書の達成が危惧される「CO2排出削減問題」は、私たち一人ひとりの担う役割の必要性は明確である。したがって、家庭つまり、市民一人ひとりが「グリーン電力」を選択することによって、再生可能エネルギーの需要を高めることは、導入を促すだけでなく、「エネルギーセキュリティー」「CO2排出削減」に大きく寄与するものと説明できる。こうした「家庭における再生可能エネルギー導入の意義」を踏まえて、さらなる再生可能エネルギー普及にむけて最後に「供給サイドの視点」と「需要サイドの視点」の2点について提言を行った。
第1に、『RPS制度の長期性の保障を』提言した。我が国のRPS法における低い目標設定値も大いに議論の対象となりうるが、あえて、制度のそのものを長期にわたり保障する必要性について提案している。「ドイツでは、FIT制度(固定価格買取り制度)」により、稼動開始より20年間の買取りが約束され、再生可能エネルギー発電事業が安定した供給ビジネスとして確立した。しかし反面、強力なFIT政策(固定価格買取制度)」により、グリーン電力として販売するインセンティブが失われ、ビジネスとしてのグリーン電力市場が衰退の方向へシフトした。こうしたことからも、再生可能エネルギーを発電する「供給サイドの視点」では、発電事業者が安定して事業を行う為に、政策の長期的な保障を得ることは、新規参入へのリスク低減となり、安定したビジネス環境を生み出すこととなることから、「政策的の長期的な保障を」提案した。
第2に、『グリーン電力の購入に対するインセンティブ導入』を提案した。再生可能エネルギーを利用する「需要サイドの視点」として、「グリーン電力」購入者に対するインセンティブ整備である。我が国でも、京都議定書の発行を受け、さまざまな市場活用型の温暖化防止政策が検討され、企業や行政にも進んで自然エネルギーを利用しようとする動機が生まれてきた。しかし現状では、個人や企業に対して「グリーン電力」の購入に対するインセンティブが存在せず、企業にとって、グリーン電力証書の購入費が税務上、寄付金扱いとなり、損金計上が困難というのが現状であり、普及を阻む要因としてあげられる。そこで、グリーン電力(証書等)の購入に対し、税減免措置といった何らかの公的評価・インセンティブが整備され、購入企業に具体的なメリットが与えられるようになれば、グリーン電力(証書等)の市場規模は大きく拡大するものと考えられる。また、こうした需要サイドのグリーン電力市場の拡大は、RPS法で定める供給サイドの目標値とは別枠の需要へと繋がり、民需主導で再生可能エネルギーの導入量の比率を押し上げることになるのである。
そして何よりも我が国の「RPS法」によって生まれた「新たな市場」によって、システム上は、市民がポケットのコインで自ら利用するエネルギーを購入し、利用が可能になるという大きな可能性を歓迎したい。
最後に、経済性の追求として「外部コストを考慮した既存電源との比較」、また、技術的なアプローチにより「系統への連結問題への言及」といった今後の課題を挙げ、本論のまとめとしている。
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