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環境NPO・オフィス町内会の組織の変遷から考察する社会的企業
(ソーシャル・エンタープライス)の役割
西村 圭生
序章
1.環境NPO・オフィス町内会の設立と経緯
(1) 設立における東京電力への資源依存
(2) システム・モデルの完成
(3) 「オフィス町内会」方式の展開
(4) 白色度70運動
2. 組織と自治体のパートナーシップ
(1) 東京都の清掃事業の移管と事業系ゴミの有料化に伴う行政との連携
(2) エコ・オフィス町内会と行政の対応
(3) エコ・オフィス町内会が組織で果たす役割
3. 企業のCSR推進による成熟期
(1) 企業のCSRの推進
(2) 企業独自のリサイクル・システムの確立と回収量の低下
(3) 企業のCSRと組織変革の模索
4. 組織の自立と転換期
(1) 新たな組織の試みと組織の変化
(2) 森の町内会の発足
終章
「社会的企業」(social enterprise)は80年代から90年代以降、アメリカやヨーロッパ諸国で台頭してきたものであり、雇用や福祉、環境等の社会の諸問題に対して、その解決を従来のように政府・行政に依存するのではなく、その行き詰まりを乗り越えるため、社会的課題を事業として取り組む社会的企業家が新しいアイディアや方法を提示し、事業として取り組んでいこうとするものである。多くの社会的企業の事業内容から考察すると、コミュニティにおける社会福祉サービス、そして社会的に不利な人たちを働く場に巻き込む社会統合の2つの柱となると考えられる。アメリカで語られる社会的企業とは、赤字にしない運営の一方で、前向きの社会的影響力を創るために設立された、非営利ビジネスベンチャーもしくは収入生成活動に対する包括的な用語である。その共通した特性として、社会的企業とは二重のボトムライン(最重点課題)――社会的使命と財務目的――の達成に専念することであり、社会的企業は双方のタイプの成果の実現に責任がある、とされている。ヨーロッパにおける社会的企業の組織形態に関しては、伝統的な協同組合と非営利組織(もしくはアソシエーション)との接近が説明され、いずれその形態移行の収斂点をイメージできるとしている。
この社会的企業は、アメリカ・ヨーロッパでも定義が異なるように、現在明確な定義は存在しない。ただし、行政や政府が踏み込めない領域を解決するために積極的に活動する組織を指すと考えられる。また、1996年にヨーロッパの大学機構や研究所などが設立したEMESネットワーク(社会的経済研究者ネットワーク)設立当初から、社会的企業の試論的定義を提案しており、多くの社会企業と目される組織はこの定義に多く当てはまるとされている。この定義は4つの経済的側面と5つの社会的側面に分別され、前者は、@財・サービスの生産・供給の継続的活動、A高度の自立性、B経済的リスクの高さ、C最少量の有償労働、後者は、@最少量の有償労働、Aコミュニティへの貢献という明確な目的、B資本所有に基づかない意思決定、C活動によって影響を受ける人々による参加、D利潤分配の制限、とされている。
本論文は、社会的企業を論ずるうえで、15年前に発足した環境NPO・オフィス町内会に着目した。平成三年に設立されたオフィス町内会は「オフィス町内会方式」と呼ばれる紙ゴミのリサイクル・システムを構築した。これにより、企業の廃棄物に関するコスト・ダウン、当時零細化が進んでいた古紙回収会社の経済的インセンティブの確立、また、紙ゴミをリサイクル・ルートに乗せることで、オフィスゴミの大幅な減量化に成功した。
オフィス町内会のこのような活動は、@紙ゴミの減量を推進することで社会的福祉に貢献している、A古紙回収業者という、当時零細化が進んでいた業界を活性化することで、社会的に不利な人たちを働く場に巻き込んだ社会的統合の役割を果たした、と捉えることが出来る。行政や政府の踏み込んでいなかった問題に積極的に介入し、一定の成果を示したともいえるだろう。このシステム・モデルの成功というものが、現在注目されている社会的企業の先駆け的役割を行なっていたと解釈する。また、この組織が、前述したEMESネットワークの試論的定義にもほぼ当てはまることも、社会的企業のモデル・ケースとして提示できると考えた。よって、本論文はこの環境NPO・オフィス町内会の組織の成立から、現在までの組織の変遷を述べ、主要な点を基礎的な経営論や組織論を用いて分析した。
1章では、組織の設立の経緯を述べ、組織の啓蒙活動である白色度70運動が組織に与えた影響を述べた。この設立期においては、オフィス町内会という組織は東京電力への強い資源依存が見られた時期であり、特に人的資源依存率は高かった。しかし資源依存による東京電力からの影響というものはなく、組織は高度な自律性を保つことが可能となった。また、組織は東京電力の資源を享受することにより、利害関係人に強い「信頼感」と「安心感」を与えることが出来、組織への会員企業の増加に少なからず影響を及ぼした。
2章では、自治体との連携により、組織がさらに拡大し、安定期を迎えたことを論じた。この安定期では、組織の活動に着目した近隣自治体と連携し、自治体内にある中小企業の紙ゴミ回収を目的とする「エコ・オフィス町内会」を立ち上げた。自治体との独自の連携により組織は、独自で「信頼感」と「安定感」を築くことが可能となった。尚、この時期、会員数も大幅に増加し安定期を迎えたが、エコ・オフィス町内会は赤字組織であり、組織から資源の供給は不可欠であった、という不安要素も抱えることとなった。
3章では、企業のCSRの推進により、組織が成熟期を迎え、新たな方向性を模索する時期に至った経緯を述べた。この成熟期は、企業のCSR推進により、多くの大企業内のリサイクル・システムが確立し、組織を退会する大企業が出てきた。これにより古紙の回収量が低下し、組織は発展期から成熟期に移行した。また、回収量の低下により事務経費も減少し、エコ・オフィス町内会の赤字の補填が、将来的に組織の啓蒙活動などに対する悪影響を及ぼす可能性も出てきた。組織はこのような状況から、組織をいずれ消滅させる方向をとるか、戦略的組織変革の道をとるかの選択を迫られた。
4章では、組織の転換期として、まず、組織の自立の過程、また、社会的企業の役割を今後も果たすべく、日本の森林問題に着手している現状を述べた。この転換期では、組織は戦略的組織変革の道を選び、組織存続のための新たなモデム構築を模索し始めた。その1つとして、まず森林のNPOと連携し、日本の森林問題への取り組みというものの情報の収集を始めた。そして、組織的にもそれまで享受していた東京電力からの資源依存を解消することを試み、事務局の移転、人的資源依存からの脱却に成功した。これにより組織は完全に自立した。そして、間伐材を使用した紙の共同購入という新たなモデル構築を行い、社会的企業としての新しい組織の活動に着手し始めた。
我が国でも、政府の財政悪化、社会構造の変化とライフスタイルの多様化、公益と私益の二元論的な枠組みに収まらない中間領域的な分野の拡大などに伴い、社会的企業という存在が注目され始めている。特に中間領域の担い手の問題に関して、政府も社会的企業の可能性というものに期待を寄せている。現在、環境分野でも政府や行政が介入しあぐね、また民間企業も立ち入ることが困難な問題が山積している。そこで、この社会的企業が環境問題においてはどのような役割を担える可能性があるのかを明らかにし、環境分野における社会的企業の事例というものを提示することを本論文の目的とした。今後の研究課題としては、日本において、社会的企業の事例を他にも提示し、日本での社会的企業の緩やかな定義というものを模索することである。
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エネルギー問題と地方自治体
−新エネルギー導入を柱として−
田村 真佐子
1. エネルギーの歴史
(1) 世界のエネルギー消費動向
(2) 日本のエネルギー消費動向
(3) エネルギー資源の確保状況
(4) エネルギーとしての石油の特異性
(5) エネルギーの中の電気エネルギー
2. 自治体が新エネルギーを取り組む際の追い風となり得る国内外の動き
(1) 京都議定書
(2) 三位一体の改革
(3) 電力自由化
3. 様々なエネルギーに関する支援・制度
(1) 地域新エネルギー・省エネルギービジョン
(2) 構造改革特区
(3) 地域再生計画
(4) 環境と経済の好循環のまちモデル事業
(5) 環境行動計画モデル事業
4.地方自治体におけるエネルギー問題への取組みとその効果
(1) 日本のエネルギー政策
(2) 地方自治体による新エネルギー導入事例
(3) 今後のエネルギー政策と地方自治体
あとがき
「中東問題」が現在の国際情勢の焦点となっているが、この問題には石油を中心としたエネルギー問題が深く関わっている。また、70年代の石油危機は東アジアにおいては主に日本のみの問題であったが、中国のエネルギー消費量の急増などにより、現在ではアジア全体での問題となりうる。こうした激動する世界の中で、日本のエネルギー自給率はわずか18%程度(原子力発電の燃料であるウランを輸入品扱いすると自給率は更に下がり、僅か4%となる。)と先進国の中で最も低い水準であり、さらに、原油調達先の多角化努力にもかかわらず、近年は中東依存度が第一次石油危機時を越える水準(85.3%)にまで高まっている。石油危機時に一旦は芽生えたエネルギーの供給途絶に対する国民の不安感も、今となれば完全に風化し、個人のエネルギー消費量は増すばかりである。 日本のエネルギー政策は、70年代においては石油危機に直面し、エネルギーの安定供給確保が他の何よりも優先された。80年代に入ってからは、安定供給に加えエネルギー・コストの低減にも配慮されることとなった。そして、90年代に入ってからは、地球温暖化防止の観点も取り入れられ、現在に至っている。
以上からとりわけエネルギー問題は、地方自治体で取り扱うものではなく、国策としての位置づけで取り決めがなされてきた。その取り組みとしては、諸外国からのエネルギー源の確保、規制策や金融、税制上の措置、技術開発政策当が挙げられるが、その具体化にあたって最も重要な役割を担っているのが、エネルギー関連税制である。石油を中心に課されている様々なエネルギー税は、価格効果を通してエネルギー需給に影響を与えると同時に、その税収の一部が国のエネルギー対策予算の財源になっているからである。 近年になり、地方自治によるエネルギー問題に対する取り組みが盛んになってきている。特に、地球温暖化防止京都会議(COP3)での合意から経る事8年後の2004年2月16日、いよいよ京都議定書が発効され、二酸化炭素削減に向けて国際的な取り決めの中での活動が必要となった。これを受けて日本においては、平成10年に制定された地球温暖化対策推進法に基づき、京都議定書6%削減の約束を確実に達成するために必要な措置を定めるものとして、また、平成16年に行った地球温暖化対策推進大綱の評価・見直しの成果として、平成17年4月28日に「京都議定書目標達成計画」を策定するにいたった。
そこで、環境省は法令を見直し、その中で地方自治体として温室効果ガスの排出の抑制に対する取り組みを講ずる事を地方自治体の責務として位置づけた。
以上にある京都議定書を中心とする環境面での変化によってのみ、地域でのエネルギーへの取組みが盛んになっている訳ではないと筆者は考える。現在の日本は、経済・金融等のあらゆる分野で政策転換と構造改革が叫ばれている。そして、エネルギー産業も例外ではなく規制緩和とグローバリゼーションの波に直面している。日本のエネルギー産業は長年、規制に守られながら国家レベルのエネルギー供給を果たしてきたが、いまやエネルギー価格の内外価格差など産業構造を大きく転換すべき時期を迎えている。
96年12月の「国際的に遜色のない電力料金水準にする」との閣議決定により進められた電力自由化への動きや、三位一体の改革における地方分権改革の影響等を少なからず受けている、そして今後さらに大きな影響を与えると予想される。
今までの国策として取り扱われていたエネルギー問題の取り組み状況および現在のエネルギー消費動向を把握しその後、地方におけるエネルギー問題に対する行動に目を移す。目まぐるしく変化する世界や国内の情勢の中、多様化してきている現状を列挙し、分析するとともに、地方自治体としてエネルギー問題に取り組むべき必要性を示し、また今後期待される地方分権化の中で、地方自治体内でのエネルギー自給率という考え方や自給率の向上は、今後の地方自治行政に対して必要不可欠であり、区別化する際には非常に有利な方向へと起因する事象の一つであると考えられる。
本研究は、元来国策であったエネルギー問題に対して、地方自治体が取り組むことによって得られる効果について述べている。地方自治体の職員の方々にエネルギー問題を身近な物として捉えていただき、出来ることから取り掛かってもらう。その後、国民一人ひとりが国策としてエネルギー問題を遠くに感じているのではなく、身近な問題として取り込み、地方自治から国策へと吸い上げられることが望ましいと考える。そのシステムを構築する担い手として地方自治体は今後ますます期待されると思われる。そして、我々の身の回りの出来事のひとつとしてエネルギー問題を取り組事の必要性と有効性を述べ、結論としている。
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地域環境保健活動における保健医療職の役割
-育児期のConsumerに関するGreen Consumerismへの転換支援の複合的アプローチ法-
塚尾 晶子
1. 序章
2. 地域住民の問題意識と環境配慮行動の現状
(1)多くの人が環境配慮行動を取れない理由
(2)環境配慮行動の実践度の高い生活者の特徴
(3)育児期の親の環境意識と環境配慮行動の現状(アンケート調査より)
(4)環境問題が育児不安に及ぼす影響
3. 環境保健リスクに対する多面的アプローチの重要性
(1)社会システムのあり方
4. 地域環境保健における保健医療職の役割と活動のあり方
(1)個人的ジレンマ解消への支援/健康と関連させた環境コミュニケーションの相乗効果(ヘルスケアの観点からの行動変容支援)
(2)中立的なリスクコミュニケーション
(3)地域保健と職域保健と学校保健の連携
(4)地域の人的資源のネットワーク形成(保健医療有資格者(有職・無職者、高齢者等))と活動支援、研修会の開催の必要性
5. 結論
(課題の設定)
本稿の目的は、21世紀の子供の環境保健向上のために、保健医療職が連携をとり地域社会をサポートしていく地域環境保健活動のあり方を検討するものである。環境に配慮した商品を購入し、使い捨てでなく循環型のライフスタイルを選択する消費者(Green Consumer(以下GC))、及び自分や家族の健康に配慮した商品(無農薬野菜、指定成分無添加食品や商品など)を購入する消費者(を総称してHealth Consumerと名づけた (以下HC))の普及を目指すとともに、地域社会の抱える様々な問題を、保健・福祉と環境の視点を切り離すのではなく地域社会の地域環境保健として広い視野で捉える。
環境は人間の健康に影響を与え、人間も環境を改変し、環境に影響を与える。今、一般的に使われている「環境保健Environmental Health」とは、環境要因(主に化学物質や自然環境)とヒト集団と環境との関わり合いを健康像の観点から健康との関連を科学的に明らかにし、健康のためのよりよい環境を維持創造するための研究、つまり、科学的根拠(Evidence)にもとづき科学技術および制度的対策(ハード面の政策)により環境の保全、改善を検討する分野をさす。「環境」とはヒトあっての「環境」であり、ヒトの健康に環境が影響を与えてこそ環境問題となり得る。公衆衛生の各論に位置づけられ研究分野が主となるが近年実践分野も重要視されてきている。
「地域保健」とは「公衆衛生Public Health」と同義的に捉えられることが多い。公衆衛生とは、ウィンスローによれば「疾病を予防し、寿命を延長し、精神的かつ身体的健康と能率性を促進する科学であり、技術である」Charles Edward A. Winslow(1920)としている。疾病志向のヘルスケアシステムから健康志向のヘルスケアシステムへの移行と共に、国民の健康を維持・増進させるため公私の保健機関や地域・職域組織によって営まれる組織的な衛生活動をいう。公衆衛生は、疫学的、生物学的、社会学的研究にその基盤を置き、研究分野、実践分野共に従来から展開されてきている。公衆衛生(予防)と臨床(治療)両者を含んだ包括的な保健医療(Comprehensive Health)である。
本稿でいう地域環境保健(Community Environmental Health)とは、地域を「Public」だけではなく「Community Environmental」の視点で捉える。地域住民を地域保健、学校保健、職域保健、環境保健の連携により、環境と健康の関連する要因から発生する地域社会の保健福祉の諸問題(ソフト面)をヒューマンリソース(Human resources人的資源、本稿では効果的な地域環境保健活動のための保健医療職の人材と考える)の視点から支援していく新たな方策として名づけた。研究分野、実践分野の両者を新たに検討するものである。 上記を検討するにあたり、2001年に筆者が実施したアンケート調査に基づく分析では、母親は子供をもつということで、「社会的ジレンマ」と「個人的ジレンマ(「社会的」ではなく「自分の健康は気になるが価格が高いから買わない・買えない」など環境問題の「社会的ジレンマ」となりうる前段階で存在する個人的なジレンマを総称して名づけた。)」が緩和され環境配慮行動が促進されるという結果が得られた。子供の健康を考えて、安全な食品をはじめとする様々な問題について意識し始めることをきっかけに、この時期での働きかけが有効なことがうかがえる。女性の環境保全運動参加については、子供の有無が大きな要因として指摘されている。そこで、母親のGCイズムへの転換支援を地域環境保健の観点から検討する。
環境問題は健康と切り離して考えることは出来ない。21世紀の保健医療は、人間を総合的に捉えることが必要不可欠であり、環境問題の深刻化と人類の健康の危機を目の前にして、保健医療職の役割として、環境問題に関する啓発活動の持つ意味は大きいと考えられる。そして、保健医療従事者が健康と関連づけて行う地域環境保健活動によってどのようにGCを増やすことができるのか、これが本稿の基本的な問題意識である。
(分析方法)
上記を検討するにあたり、母親は子供がいることで個人的および社会的ジレンマの緩和につながっていると仮定し、未就学児の子供を持つ母親にアンケートを実施した。実施期間(2001/9/1〜9/20、回収は46部、回収率65%)、(2005/11/15〜11/31、回収は122部、回収率85.3%)の2回実施。両アンケートとも都内23区内勤務者(外郭団体1、大企業3社)で実施。直接配布して記入後回収。サンプルも少なく地域の代表性という側面での問題は残るが、現実の生活者像を捉えるうえで興味深い結果が得られている。環境問題は、情報の氾濫とエビデンスの不明確さから適切な情報が入手できづらいという現状がある。それ以外の問題点、ニーズを、先行文献やアンケート調査から浮き彫りにする。現在、GCの普及に向けて、誰に対してどのような主体がどのような方法でコミュニケーションを行っているのか、現時点での現状の類型化を行う。また人々の健康を支援する保健医療専門職の可能性と環境コミュニケーションのあり方、地域環境保健活動の可能性を検討する。
(論旨の展開・結論)
アンケート調査や先行研究に基づく分析では、母親は子供をもつということで、「個人的ジレンマ」が緩和され環境配慮行動が促進されるという結果が得られた。母親が家族に与える影響は大きく、子供の将来の健康や環境も左右される。母親がGCになる(きっかけをつかむ)確率は高く、周りに与える影響力も大きい。行動変容のきっかけは健康意識であった。したがって、そのような母親に対しての有効なアプローチが将来の環境・社会を大きく変えると考える。しかし、不確実性が高い環境問題に関する情報は、マスメディア型の大量で一方通行な情報提供がほとんどを占めるため、母親は適切な情報を把握することが難しい現状にある。エビデンスのない不確実性の高いものには、行政も対策をとることが難しい。母親は「子供を持つ」という個人的ジレンマを緩和する要因がある反面、情報環境の不備から、環境問題は育児不安の要因となっている。その不安を取り除きGCイズムへの移行のアプローチを有効にする方策として、中立的な立場でリスク評価ができる能力を有する人材が育成され、コミュニケーションの場面で活躍することが望まれる。自治体や企業など組織の行うリスクコミュニケーションには限界があり、コミュニケーションには中立的に介在するファシリテーターという専門家が必要となる。その候補として、保健医療従事者が有力であると考えられる。保健医療従事者が行うことで、健康と関連させてのコミュニケーションの相乗効果が期待される。行動変容の一番のきっかけとなりやすいヘルスケアに着眼点を置き、個々人のQOLを考慮した保健医療職が行うヒューマンサービス型でファシリテーション型の新たなリスクコミュニケーションの導入が今後必要となる。
尾身茂WHO西大西洋事務局長は、閉塞感漂う現代日本の状況を「関係性の喪失」と表現している。また、それを打破するのは公衆衛生人であると述べている。様々な分野の連携による地域環境保健活動を担う保健医療職の地域人的資源ネットワーク形成は、保健医療職における地域へのサポート力を増強させ、地域コミュニティの再生へとつながると考える。
今後は、保健医療職によるリスクコミュニケーションの実施、評価、研究を継続し、研究分野、実践分野共に深めていきたいと考える。
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農山村地域における観光事業としての
グリーン・ツーリズムの課題と展望に関する研究
−高齢化社会の余暇活動ニーズと健康志向型グリーン・ツーリズム−
和田 秀男
序章 研究目的と研究方法
(1) 研究の課題と目的
(2) 先行研究の成果と問題点
(3) 構成と研究の方法
1. グリーン・ツーリズムの概念・成立要因・形態
(1) 日本のグリーン・ツーリズムリズムの概念
(2) 欧州のグリーン・ツーリズムの概念との比較
(3) 日本におけるグリーン・ツーリズムの背景と成立要因
(4) 日本におけるグリーン・ツーリズムの事業類型と特徴
2. わが国における農山村地域振興とグリーン・ツーリズムの展開
(1) 国土計画における観光政策の位置づけと地域振興
(2) 農業政策の転換とグリーン・ツーリズムの始まり
(3) 農山村地域におけるグリーン・ツーリズムの推進主体
(4) 日本型グリーン・ツーリズムの市場類型
(5) 欧州のグリーン・ツーリズムとの条件比較と規制緩和
3. 高齢化社会、健康志向とグリーン・ツーリズム
(1) 都市側高齢者層の余暇活動ニーズ
(2) 「新・健康観」と観光
(3) 新しい観光形態としてのグリーン・ツーリズム
(4) 海外の保養地の事例I・・・ドイツにおけるクナイプ療法
(5) 海外の保養地の事例II・・・ドイツの温泉保養地
4.各地に見られる日本型グリーン・ツーリズム展開の事例から
(1) 長野県飯山市の事例I・・・交流を通じた農村活性化の取組み
(2) 長野県飯田市の事例II・・・飯田型ツーリズム
(3) 茨城県八郷町の事例III・・・新規就農制度と体験型観光への取組み
(4) 山梨県上野原棡原の事例IV・・・長寿の里「棡原」
(5) 茨城県笠間市の事例V・・・滞在型市民農園(クラインガルテン)
5.日本型グリーン・ツーリズム実践の課題と展望
(1) 日本型グリーン・ツーリズム市場の現況
(2) グリーン・ツーリズムによる地域活性化の課題
(3) 観光事業としてのグリーン・ツーリズムのあり方
あとがき
本研究は、日本におけるグリーン・ツーリズムの将来展望と課題を示す事を目的としている。日本においては、これまでグリーン・ツーリズムが農業政策のひとつとして、地域農業活性化、農山村振興に力点が置かれ展開されてきた。ここでは、あくまで観光現象(ツーリズム)の視点から、特に今後の高齢化社会をにらみ、余暇活動の新しい観光形態としてそれを捉えた。そのような活動の展開の基盤となる農山村を取り巻く諸条件を検討し、将来における農山村地域での観光事業としてのグリーン・ツーリズム振興の課題と展望を論じている。
序章では、本研究の目的、方法を述べている。あわせて先行研究にもふれ、その成果や課題を明らかにした。先ず、高度経済成長期以降、農業人口の急激な減少等により、農山村地域を取り巻く環境が厳しくなるなかにおいて、地域再生の手段として、主に農業政策の一環とした地域農業の活性化による地域振興に力点がおかれグリーン・ツーリズムが推進されてきた背景を述べた。これまで多くの研究者により、先行研究が発表されているが、殆どが各地域の展開段階に関するもので、都市と農山村交流に重点を置きながらも、内発的な地域農業活性化、農山村振興に力点がおかれていることを指摘した。その上で、本研究は、グリーン・ツーリズムによる農山村地域の観光振興の要である外発的な手法としての観光現象(ツーリズム)の視点から、グリーン・ツーリズムを、今後の高齢化社会の新しい余暇活動の観光行動の一形態として捉え、農山村地域におけるグリーン・ツーリズム振興の課題と将来展望を目的としている。本研究方法は、資料・文献の整理とともに、旅行業界やユーザーへのヒアリング、各地での現地調査を行ない、実態および方向性の分析と把握を行なっている。
第1章では、日本と欧州におけるグリーン・ツーリズムの展開を概観し、それぞれの概念の比較を行なっている。先ず、日本における「グリーン・ツーリズムの概念」の把握を行なった。日本の場合は、明確には確立されておらず、農林水産省をはじめ研究者によってその概念は異なっている。このなかには、グリーン・ツーリズムを都市住民の農山村地域への観光行動よりも、むしろ過疎対策、農村活性化の戦略的手段と位置づけているものもある。これらを踏まえ、グリーン・ツーリズム発祥地における欧州の概念との比較を行なった。欧州の概念は「自然の美しい農山村地域でゆったりと過ごす滞在型休暇」であり、農村そのものが観光資源であり、農家民宿が主体のスモールな展開である。グリーンの語意には、「環境に負荷を与えない」ことを含意しているとされている。日本のグリーン・ツーリズムの概念は、基本的には欧州のグリーン・ツーリズムに副ったものであるが、日本と欧州では、都市住民側と農山村側の諸条件が異なることから、日本の諸条件に即した「日本型グリーン・ツーリズム」として、日帰り旅行や農林業体験も含めた広いものとしている。しかしその展開においては、「観光にやさしい」という概念が殆ど欠如しており、欧州のグリーン・ツーリズムの概念と明白に異なることを指摘した。次に、日本におけるグリーン・ツーリズムの背景と成立要因を社会・経済的側面・農業側面・観光側面より明らかにした。社会・経済的側面は、高度経済成長とともに、都市生活者の社会的生活環境の劣化がみられ、都市住民の生活価値観の変化から生活の質に重点がおかれ、緑や自然を求める気運が高まり農村志向の動きが出てきた。一方、農村側面では、農業人口の激減や過疎化による労働力の不足とともに、農業構造の転換政策が行われ、その後の「農村休暇法」制定など推進施策の具体化に伴い各地で推進されてきている。また観光側面では、観光産業側も観光形態の多様化を図り、都市住民の農村志向の旅行ニーズに応えてきたという各々の側面を述べた。日本型グリーン・ツーリズムの事業分類については、事業類型として農産物提供型・農村空間提供型・体験交流型・生涯学習型に大別される。その類型別の展開内容を図表に整理し、各々について説明を加えた。
第2章では、先ず、わが国の国土計画における観光政策と地域開発として、各回の「全国総合開発計画」を概観し、地域観光政策の位置づけの把握を行なった。特に新全総(二全総)においては、地域の産業振興の一手段として観光開発が謳われ、過疎地域と地方都市が主な対象地域とされ、農山村漁村と都市地域の均等ある発展が目指されている。またこの新全総では、初めて環境破壊の危機と保全が掲げられている。次に、グリーン・ツーリズムの展開過程を明らかにした。農林水産省が1992年に「新しい食料・農業・農村政策」(新政策)において、日本で始めてグリーン・ツーリズムを取り上げ、その後、政策が具体化していくなかで農村政策の重要な柱として位置づけられた。日本のグリーン・ツーリズムの始まりともいえる、「グリーン・ツーリズム研究会中間報告書」(農林水産省発行1992年)刊行以降の推移を行政と民間のふたつの流れを図表に整理して明らかにした。今日まで様々な施策が講じられており、今後、各地にてグリーン・ツーリズムの推進が予測される。また農山村地域における推進主体と市場類型の特徴を述べている。日本の場合、推進主体は多様であるが、行政主導(市町村・JA農協)型、地域住民主導(農家グループ・地域経営農業等)型、第三セクター主導・民間主導型に大別される。市場類型は、日帰り型、週末滞在型、滞在型等の利用体系別の展開内容を図表に整理し、各々について説明を加えた。さらに欧州のグリーン・ツーリズムとの条件比較を行なった。特に農家民宿の経営条件については、日本の規制緩和の状況を絡めて比較を行なった。
第3章では、高齢化社会の余暇活動として、高齢者(都市住民)の農山村地域への旅行ニーズに関して、旅行業界やユーザーへのヒアリング、各地での現地調査及びデータ資料をもとに実態および方向性の分析と把握を行なっている。高齢者(都市住民)の旅行ニーズとして農村志向は顕在化しており、また、この高齢者層は「食と健康」に関心が高いことが明らかになった。高齢者層の農山村地域への旅行ニーズは、多様で農村(自然)志向であるが、根底には娯楽を求める旅行感覚があり、あえて農村交流・農業体験に固執していないことも明らかになった。一方、日本では、欧州に見られる全国的斡旋機関(団体)が存在せず、農家民宿等の地域情報が容易に入手できないこともあり、現状の市場は教育(学生)マーケットに偏重していることも課題として明らかにした。次に都市住民側より、「新・健康観」と観光動機・目的との関連を論じ、「健康」をテーマとした、健康志向型グリーン・ツーリズム展開のモデルとして、農山村地域の健康型資源を活用した地域連携の滞在型保養地づくりの構想を行なった。この滞在型保養地は、自治体・現地主体・旅行業者の3者の出資により創設されるもので、各々の役割とメリットを明らかにした。また文献を基に予防医学の観点から、海外の保養地の事例として、ドイツ・バイエルン州バーン・ウェーリホーフェンの森林療法とドイツ国内の温泉保養地の概要を述べた。
第4章では、今回の現地調査として、わが国におけるグリーン・ツーリズムの展開事例を、現地主体でのヒアリング・調査をもとに実態把握を行なった。調査事例は@長野県飯山市の「なべくら高原・森の家」を中心とした広域地域連携の展開、A長野県飯田市のワーキングホリデー、食農教育としてのツーリズム大学展開、B茨城県八郷町、JA八郷の新規就農制度と体験型観光の取組み、C山梨県上野原市棡原の「長寿食」による村おこし、D茨城県笠間市の滞在型市民農園(クラインガルデン)の活動の5事例である。各々の現地主体により、グリーン・ツーリズムの解釈に差異があり、方向性が異なることが明らかになった。
第5章では、第1章〜第4章で得た知見をもとに、高齢化社会における高齢者(都市住民)を対象としたグリーン・ツーリズム振興にあたり、それを阻害する要因と課題を明らかにして考察を行なっている。地域側の課題としては、積極的な農村空間の整備(魅力ある地域づくり)・顧客ニーズの正確な把握(マーケティングの重要性)・環境保全と地域振興(双方のバランス・調和)の3課題について考察を行ない、また、高齢者(都市住民)対応の課題としては、新たなマーケットの開拓(教育(学生)マーケット偏重から高齢者市場へのシフト)・健康志向型の旅行商品づくり(消費者ニーズの把握と市場性)・旅行業界との提携によるプロモーション(ネットワークの確立による潜在顧客の掘りおこし)の3課題について考察を行なった。特に地域観光振興においてのマーケティングの重要性と旅行業界との提携の必要性を主張している。現状の滞在型グリーン・ツーリズム市場は、農業体験を主とした教育(学生)マーケット等に偏重しており、高齢者(都市住民)を対象としては成熟していないといわれている。しかし、今日、旅行市場において大きなマーケットを形成しているのは高齢者層であり、ニーズ調査からも今後の更なる高齢化社会において、ともあれ新しいマーケットに位置づけられると予測される。まとめとして、高齢化社会の余暇活動として、農山村地域における観光事業としてのグリーン・ツーリズムの将来展望と展開への課題として2つの結論を述べている。結論(1)将来展望は、「高齢化社会の余暇活動ニーズとして、農村志向および「食と健康」への関心が高まりつつある。「健康」をテーマとした新しい形態のグリーン・ツーリズム市場が拡大することが予想される」としている。結論(2)展開への課題は、「今後の高齢化社会における新しい余暇活動としてのグリーン・ツーリズムの展開においては、旅行業界とのネットワークの確立による良質のマス・ツーリズムとスモール・ツーリズムの併存を図る必要がある」と提言をおこない、それぞれの結論としている。
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