法政大学 文学部 尾谷研究室 〒102-8160
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テーマの決め方


1.テーマを決める、これだけでも難しい

  卒業論文の作成にあたって、まず最初の難関になるのがテーマ選定です。間違ったテーマ選びをしたり、自分で勝手にテーマを決めたつもりで安心していてはいけません。いざ本格的に取りかかると、「こんなテーマじゃダメだ」、「すぐに行き詰まってしまった」、「何から始めてよいか分からない」となるのがオチです。以下の注意点をよく読んで、2年生の終わりまでには考えておきましょう。(ネタ集めに便利なサイトはこちらを参照。)

1.1 テーマについて
  まずテーマを選ばなくてはいけませんが、これは
できるだけ狭く絞って下さい。よく勘違いされるケースとして、「○○について」という漠然としたテーマを考える人がいます。例えば「若者言葉について」、「敬語について」、「ことばの乱れについて」、「オノマトペについて」などです。しかし、これだけでは、若者言葉の何について調べたいのか分かりませんし、何を明らかにしたいのか(=何が疑問なのか)も分かりません。テーマが漠然としている(広すぎる)と、何から手をつけてよいのか分からなくなってしまいます
  「自分が知りたいと思うこと、不思議だと思うことを研究テーマにする」というのが普通ですが、これも気をつけなければいけません。私にだって知りたいことは山ほどあります。「宇宙はどうして出来たのか?」、「女性にモテるにはどうしたらいいのか?」、「幼児がわずか数年で母語をマスターできるのは、いったい何故か?」、「韓国語が母語の人と、中国語が母語の人と、どちらが日本語を容易にマスターできるのか?」など、きりがありません。しかし、
大きすぎるテーマはダメです。大学4年生が1年間で研究できることなんて、たかが知れています。自分一人で、限られた時間の中で、ある程度の結論が導き出すためには、もっと小さなテーマに絞り込んで下さい。
  例えば、上に挙げた「女性にモテるにはどうしたらいいのか?」で考えてみましょう。モテるための要因や手段(?)はいろいろあります。「顔がいい」というのは誰でも思いつくでしょう。そこからより具体的に絞って、「女性はどんな顔が好みなのか?」という研究テーマが考えられます。しかし、これでもまだ不十分です。人間の顔にはいろいろあるからです。髪型、目、全体のシルエットなど、考え出したらきりがありません。肌の色にしても、色白がいいのか、それとも小麦色に焼けた肌が好きなのか、人によって好みの分かれるところでしょう。であれば、もっと絞り込んで、「色白と小麦色の肌ではどちらがモテるのか?」とできます。
ここまで絞り込めば、研究も具体的に進められますよね
  ただし、小麦色の肌といっても、そういう肌の人はだいたいアウトドア系のスポーツをやっている人でしょうから、そういったイメージが(も)影響していることを考慮しなければいけません。要するに、肌の色だけで「モテるかどうか?」が決まらないというわけです。結局は、「スポーツマンがモテるのか?」という研究テーマと重なることになります。しかし、悲観することはありません。最初の疑問(A)について考えていたら、別の疑問(B)が湧いてきた、というのは悪いことではありません。それだけ研究が広がりを見せたと解釈してください。最初から大きな(=漠然とした)テーマを選んでしまうと、何をやってよいのか分からなくなりますが、小さなテーマに絞り込めば、何をやればよいかが分かりやすくなりますし、問題点も見つけやすくなります。そしてそれが、次の疑問につながり、研究がより発展して(=深まって)いくのです。ですから、
できるだけ小さなテーマを設定する方が良いのです。
  一番
テーマになりやすい形は、「なぜ〜〜なんだろう?」だとか、「〜〜と〜〜はどこが違うのだろう?」という疑問形です。それが思いつかない場合は、先行研究(の一部分)を批判する形でスタートし、最後に自分の代案を主張するというのが最もポピュラーな書き方です。他にも、ある一つの表現に絞って、その意味や使用文脈などを研究するのもお勧めです。例えば、文頭で使用する「っていうか」はどんな時に(どんな文脈で)使用するのか。「それ、まじウケんだけど」という発話で、文末に「けど」が使用されていますが、この意味は逆接の「けど」と本当に違うのか。違うとしたら、どういう意味で使用されているのか。こういった一つの表現に絞り込んでおけば、調査が非常にやりやすくなります。
  テーマの絞り込みをしっかりやっておかないと、後で泣きを見るのは自分です。先にも述べたように、「若者言葉について」というような漠然としたテーマは、単に分野を絞っただけに過ぎないので、結局「何やをやったらいいのだろう?」という問題が残ります。料理にたとえるなら、漠然と「中華料理を食べよう!」と決めただけに過ぎません。中華料理でもラーメン、天津飯、ギョーザ、、、など色々あります。さらに、ラーメンにするとしても、担々麺、ワンタン麺、味噌ラーメン、醤油ラーメン、とんこつラーメン、、、、と絞り込む必要があります。そこまで絞り込んだから、いよいよ最終段階です。「なぜ日本の担々麺には汁がはいっているのだろう?」とか、「担々麺に使う麺はどんな麺がいいのだろう?」とか、「醤油ラーメンとみそラーメンでは、麺はどう違うのだろうか?」といったような疑問形にまで絞り込みましょう。これをしっかりと考えておかないと、良いテーマとは言えません。
  ただし、ここで注意が必要です。下の「文献探しについて」でも書きますが、ここまでテーマを絞り込むためには、逆説的ですが、文献を20本ほど読む必要があります。
「テーマを決めてから文献を探そう!」なんて考えている人は、そもそも前提が間違っています。予備知識のない状態で、「今夜はどんなラーメンを食べようか」なんて考えられるわけがありません。少なくとも、ラーメンにはどんな種類があり、それぞれどんな特徴を持っているのか、近所にどんなラーメン屋が存在するのか、そのラーメン屋は「食べログ」などの口コミサイトで星をいくつ獲得しているのか、、、、といった下調べが重要になってきます。それと同じように、テーマを決める際にも文献をまず読まなければなりません。例えば、若者言葉について研究したいなら、とりあえず若者言葉に関する書籍を5,6冊は最低でも読んで下さい。(若者言葉の書籍はたくさん存在するので、できれば10冊は読んでほしい。) そうすれば、若者言葉にはどんなものがあるのか分かりますし、それぞれの表現についてどんなことが一般的に知られているか(=もう研究しなくてもいいこと)が分かりますし、逆に、どんなことがまだ知られていないのか(=研究の余地が残されているのか)を知ることもできます。
  そうやって調べた結果、「ってゆうか」について調べたいと思ったとしましょう。
しかし、これでもまたテーマを決定したとは言えません。次にやるべきことは、「ってゆうか」に関する論文を調べることです。研究の最先端はやはり論文です。「ってゆうか」に関する論文を10本ほど探して、徹底的に読み込みましょう。そして、先と同じように、@既に研究されていること、A研究されてはいるが、不十分だと思うこと、B研究されてはいるが、間違っている(=反論したい)と思うオこと、Cまだ研究がされていないこと、を確認してください。A〜Cが見つかれば、初めて「テーマ確定!」と胸を張って言えます。それが出来なければ、別の表現(たとえば「〜、みたいな。」とか)に変更して、同じように論文を読む作業からやり直しです。テーマを絞り込むということは、こういった努力と同時並行でしか成立しません。
  程よく絞り込んだ良いテーマ(≒論文として成立しやすいテーマ)を探すには、最初から論文を読んでみるのも手っ取り早い方法です。専門雑誌、学会誌はもとより、論文を集めて書籍として市販されているもの(=論文集)もあるので、図書館で探してみましょう。私のHPでも
MAGAZINEPLUSというデータベース検索について簡単な紹介を掲載しています。他の人がどんなテーマで論文を書いているのかを見ると、自分がテーマを絞り込む際に非常に参考になるはずです。また、同じく図書館HPからCiNiiへのリンクも張ってありますので、そちらでも検索してみて下さい。(運が良ければオンラインで読める論文がヒットするかもしれません。)
 参考までに、避けた方がよいテーマの例をいくつか挙げておきます。既に多くの研究がなされているものは、ほかに研究できる余地が見つけられない恐れがあるため、避けた方が無難です。(勿論、どの先行研究も触れていないような、独自の面白い観点が見つかれば話は別ですが、それは一流の言語学者でも難しい場合があります。)

   オノマトペ ・・・・ 先行研究が多く、オリジナリティが出しにくい
   主語   ・・・・ 同上
   ハとガ  ・・・・・ 同上
   省略  ・・・・ 同上
   終助詞ヨとネ ・・・・同上
   文末のケド ・・・・同上
   若者言葉のッテユウカ ・・・・同上
   若者言葉のヤバイ ・・・・・・ 同上
   語源   ・・・・ あらゆる時代の日本語(古語)を、片っ端から読んで調査できますか?
   方言   ・・・・ 一人で何日も現地調査に出かけられますか?




1.2 文献探しについて
  テーマを決めるためには、逆説的ですがそれに関する論文をいくつか読んでみる必要があります。つまり、テーマにしたいと思う問題をまず考えるのですが、その段階ではそのテーマはあくまでも<テーマ候補>でしかないということです。テーマとして最終決定するためには、それに関する論文をもっと沢山集めて読んでみる必要があります。その上で、「ははぁ、こうやって研究している人がいるのか」、「この人の主張は納得できない(=間違っている)ぞ」、「これなら自分でも研究できそう(=自分オリジナルの主張ができそうだ)」、「他にどんな文献を読めばいいのだろう」など色々な事を考えます。いろいろな先行研究の文献を読んでみて、自分が他に何も口を挟めない(=自分独自の意見が出せない)と思ったら、残念ながら「論文」にはなりません。この段階をクリアして、始めてテーマ候補がテーマとして決定されるのです。
  テーマが決まったら、次は文献集めです。いくつかの手段があります。(文献探しについてはこちらも参照。)

  @ 書籍
        → 法政大学大学図書館のOPAC
             (書籍名や著者名でしか検索できないというデメリット)
        → Googleブックス
             (本の内容で検索できるが、公開されているページが少ない)
  A 論文や雑誌記事 (書籍も含む)
        → 日本語研究・日本語教育研究文献データベース(国立国語研究所)
        → NDL-OPAC(国立国会図書館)

        → 法政大学図書館のオンラインデータベース(
MAGAZINE PLUSCiNiiなど)で検索
  B とにかく様々な情報を幅広く検索する
        → GoogleなどでWEB検索
             (検索ワードを複数設定し、いろんな組み合わせで検索)

  @のOPACは、図書の中身ではなく、図書の書名・著者名で検索するものですから、非常に大雑把な検索しかできません。たとえ「若者ことば」というキーワードが書名の一分になっていても、その本の中に自分の知りたい情報がどれだけ詰まっているか解りません。また逆に、自分が知りたいと思っている事実が書かれている本であっても、その本のタイトルに「若者ことば」という語句が入っていなければ、いくらOPACで「若者ことば」を検索しても、そのを見つけ出すことは不可能です。Googleブックスは、本文の文字列を検索できますが、著作権の都合もある、検索用に公開されているのはほんの一部のページのみです。
  テーマを絞って文献を探すなら、Aの
MAGAZINE PLUS
CiNii、もしくは国立国会図書館サーチや、NDL-OPACなどで検索することをお薦めします。学術論文や雑誌記事のタイトル、キーワードで検索ができるので、内容に直結した検索が可能です。特に後者はお勧めです。(大学生なのだから、ぜひ国立国会図書館のカードを取得し、卒業までに何度か足を運んで下さい。) 論文が収録されている雑誌なり書籍は、図書館で入手してください。法政大学の図書館に所蔵されているかどうかは、図書館のOPACで検索して下さい。所蔵されていない場合は、カウンターで複写依頼の手続きをとることにより、該当ページのコピーを取り寄せることができます。実費が必要ですが、手続きは非常に簡単です。ぜひ、今のうちに文献複写取り寄せにチャレンジしてみましょう。
  最後にBですが、普通のインターネット検索も意外とバカにできない利便性があります。ただ単にキーワードを1つ入れて検索するのではなく、複数のキーワードを(スペースで区切って)入力する複合検索にチャレンジしましょう。そうすれば、自分が求めている情報に近い検索結果が得られます。 ただし、信頼性の乏しい情報も氾濫しているので、注意が必要です。そんな怪しい情報を載せる人はもちろん悪いのですが、その情報を信じて自分の論文に書いた時点で、それはアナタの責任になります。「
自分は騙されただけだ!」という言い訳はできませんので、気をつけて下さい。




2.テーマは無限大、己を知るにはまず他人を知れ
  テーマを選べと言われても、どうやって選んだらいいのか分からないという人も多いはずです。この「どうやって〜〜〜したらいいか分からない」という漠然とした疑問は、嫌なことから逃げるための(もしくは自己弁護の)手段としてもよく使われます。しかし、卒業論文には〆切があるので、いつまでも逃げるわけにはいきません。
  まずすべきことは、自分が感心を持てるテーマを見つけることです。研究テーマとは、「なぜ〜〜なのか」、「どうしたら〜〜になるのか」、「「○○は××と何が違うのか」といった疑問文の形で表されるものと考えると分かりやすいでしょう。その疑問を解明するために、自分なりに資料やデータを集め、議論を重ねながら、自分なりの答え(=論文での主張=結論)を見つけるのが卒業研究です。ですから、いろいろなことに疑問を持つ癖をつけておかなければいけません。裏を返せば、そういった疑問を見つけられない学生は、主体的に勉強する意志も意欲も無く、ただダラダラを大学生というモラトリアムを過ごしてきたと非難されても仕方ありません。しかし、疑問を持つ(=探す)といっても、そう簡単な事ではありません。
  そこで、いろいろな方面にアンテナを張っておき、常日頃から自分の知識を広げておく必要があります。例えば、ことばに関するQ&Aなどをネットで探してみるといいでしょう。だいたいのサイトではQ(疑問)に対する答え(A)が掲載されているので、それをそのまま研究テーマにすることは出来ませんが、それをキッカケに新たな疑問が湧くこともあります。例えば、独立行政法人国立国語研究所や、NHK放送文化研究所にそのようなQ&A(FAQ)コーナーがあります。
  さらに、先輩の卒論のテーマを参考にするという手もありますね。

   → 過去の卒業論文タイトル一覧




3.学術雑誌や学会発表にも目を通そう
 卒業論文は、単なるエッセイではありません。学術的な研究をするわけですから、新書や入門書のようなものだけを読んでも、一定の深みに達する研究はできません。しっかりとした研究をするためには、しっかりとした研究論文をお手本にしましょう。例えば、言語系の学会だけでも10以上はあります。それらの学会で、例年どのようなテーマの研究発表が行われているのか、ざっと目を通してみましょう。そうすれば、きっと視野が広がります。中には、発表タイトルだけではなく、発表要旨が閲覧できるようになっている学会ホームページもありますよ。

   → 学会における過去の研究発表例

   → 論文データベースを検索してみたいならこちらを参照



4.実際に論文を読んでみよう!
  他人の研究テーマ(のタイトル)だけ見ていても、すぐに自分のテーマが決まるとは限りません。他人のテーマを知ることは、あくまでも「どんな研究テーマがあるのか」を知る(=選択肢を増やす)ためです。「研究って具体的にどうやるの?」、「自分の研究を、どうやって論文にまとめればいいの?」という悩みも必ず出てきます。それらを解消するには、実際に論文を読んでみることをお薦めします。論文を読んだことのない人が、論文を書くなんて不可能です。「論文の書き方」を解説している書籍もたくさんありますが、マニュアルに頼るだけでは本当の力は身につきません。(学術)論文というと、「難しいことが書いてあって、どうせ私には理解できない」とか、「敷居が高い」とか感じる人も多いでしょうが、一歩踏み出す勇気を持ちましょう。多少分からない学術用語があっても、読み飛ばせばいいんです。(小説を読んでいるときに、自分の知らない地名が出てきたからといって、それを辞典や地図でいちいち調べないと先に進めないということはありませんよね。それと同じです。)

   → 論文を収録した市販書籍(論文集)はこちらを参照
   → 雑誌論文などで、図書館にその雑誌が図書館に所蔵されていない場合は、複写依頼をすることができます。
      詳しくは、図書館受付に尋ねて下さい。



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